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ふくらはぎの痛み・こむら返りに効く漢方(1)
ふくらはぎの痛み・こむら返りの考え方と漢方処方

2020/08/19

 ふくらはぎは、主に下腿部後面の下腿三頭筋から構成されており、ひらめ筋と左右両側の腓腹筋から成ります。歩いたり走ったり運動するには、あるいは姿勢を保つには欠かせない筋肉です。ふくらはぎはまた、伸び縮みする際に血液を心臓に送り返す、いわばポンプの役割も果たしており、第2の心臓とも呼ばれています。

 ふくらはぎは、激しい運動を行った後や、血行不良・冷えの影響などにより、痛みが生じることがあります。特に、突然ふくらはぎの筋肉が異常に収縮し痙攣すると、こむら返りになり、強い痛みが生じます。

 また血行が悪くなると、足先やふくらはぎに栄養や酸素が十分供給されなくなり、つりやすくなります。大量の発汗による脱水状態や、血液中の電解質(ミネラル)バランスの失調によっても、筋肉がつるリスクが高まるようです。中高年や妊娠中の女性も、こむら返りを起こしやすいようです。

 ふくらはぎの痛みやこむら返りは誰にでも生じることのある症状ですが、まれに病気と関係していることもあります。その1つが閉塞性動脈硬化症です。手足の動脈が動脈硬化によって硬く細くなり、血管内腔が狭くなったり詰まったりして血行が悪くなり、様々な症状を引き起こす疾患です。足のしびれや痛み、冷えが生じます。下肢静脈瘤や坐骨神経痛と関係している場合もあります。

 漢方では、痛みは気・血(けつ)・津液(しんえき)など人体の構成成分の「流れ」や「量」と深い関係にあると捉えています。気は生命エネルギーに近い概念、血は全身を滋養する血液や栄養、津液は体内の水液を指します。ふくらはぎの痛みやこむら返りと特に関係が深いのは、血と津液です。

 まず流れについては、中医学に「不通則痛(ふつうそくつう)」という言葉があります。「通じざれば、すなわち痛む」と読みます。体内での気・血・津液の流れがスムーズでないと痛みが生じる、という意味です。

 量については、「不栄則痛(ふえいそくつう)」という原則もあります。「栄えざれば、すなわち痛む」と読みます。人体にとって必要な気・血・津液が不足すると痛みが生じる、という意味です。栄養や潤いが十分供給されないと、その部分が正常に機能できず、痛みが生じます。

 漢方では、血や津液の流れや量をととのえることにより、慢性的に繰り返すこむら返りやふくらはぎの痛みの治療を進めます。

 こむら返りに代表されるような筋肉のひきつりが明らかなら、「肝血虚(かんけっきょ)」証です。血は人体の構成成分の1つで、血液や、血液が運ぶ栄養という意味があります。肝は五臓の1つで、「疏泄(そせつ)をつかさどる(体の諸機能を調節する)」とともに、「血(けつ)を蔵す」機能もあり、血を貯蔵して循環させる臓腑でもあります。また「筋(きん)をつかさどる」機能もあり、筋肉の収縮や弛緩といった運動の制御もします。この肝において必要とされる血(肝血)が不足している体質が、肝血虚です。しびれを伴うことがあります。この体質の人には、肝血を補う漢方薬を用いて、ふくらはぎの痛みやこむら返りを治療します。

 血行不良がベースにあるようなら、「血虚血瘀(けっきょけつお)」証です。血虚と血瘀の2つの証が同時にみられる証です。血虚なので「不栄則痛」で痛みが生じます。血瘀は、血の流れが鬱滞している状態なので「不通則痛」で、やはり痛みが生じます。血虚は偏食など乱れた食生活、胃腸機能の低下、出血、慢性疾患などにより生じ、血瘀は精神的ストレス、寒冷などの生活環境、寒冷刺激、不適切な食生活、運動不足、水液の停滞、生理機能の低下などにより起こります。血を補い血の流れを促進する漢方薬で血流を改善し、ふくらはぎの痛みやこむら返りを治療します。

 下半身の冷えやむくみを伴うようなら、「寒湿(かんしつ)」証です。寒湿邪が足に停滞して血行を阻害し、ふくらはぎの痛みやこむら返りを生じます。寒湿邪は、体内に滞留する寒邪と湿邪が結合した病邪です。長時間の立ち仕事によって生じることも少なくありません。体を内側から温めて湿気を取り除く漢方薬を使い、ふくらはぎの痛みやこむら返りの治療をします。

 加齢に伴い頻繁に生じるようになったふくらはぎの痛みやこむら返りなら、「腎陽虚(じんようきょ)」証です。腎の陽気が不足している体質です。腎は五臓の1つで、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖、ならびに水液や骨をつかさどる臓腑です。陽気は気のことです。加齢とともに生じやすい証ですが、加齢だけでなく、過労、生活の不摂生、慢性疾患による体力低下などによっても人体の機能が衰え、冷えが生じてこの証になります。腎陽を補う漢方薬で、ふくらはぎの痛みやこむら返りの治療を進めます。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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