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微熱に効く漢方(1)
微熱の考え方と漢方処方

2020/07/10

 微熱は、ウイルスなどによる感染症や、慢性気管支炎、慢性副鼻腔炎、肺結核、甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍、膠原病といった慢性疾患などによって生じます。病気に罹患していなくても、疲れたときや、ストレスがかかったとき、月経の高温期などに微熱が生じることもあります。

 原因となる明確な疾患がある場合はその治療を優先しますが、原因となる器質的疾患がない場合や、原因が特定できない微熱もあります。漢方薬による治療は、そうしたケースにおいて、特に効果を発揮します。

 微熱には、熱邪(ねつじゃ)が関与しています。熱邪は病気の原因(病因)の1つで、自然界の火熱により生じる現象に似た症状を引き起こす病邪です。火邪(かじゃ)ともいいます。

 熱邪には2つのタイプがあります。ウイルスなどによる感染や、炎症、機能亢進、温熱の環境や飲食などにより、熱邪の勢いが盛んになって生じる実熱(じつねつ)と、熱を冷ますのに必要とされる陰液が不足しているために(陰虚)、相対的に熱邪が強まって生じる虚熱(きょねつ)です。実熱の場合は熱邪を冷まし、虚熱の場合は陰液を補うことにより熱邪を治療します。従って漢方では、熱邪が実熱か虚熱かにより、処方を使い分けます(陰液とは、人体の構成成分のうち、血(けつ)・津液(しんえき)・精を指します)。

 微熱は、感染症など実熱の初期や、軽度の実熱でもみられますが、主に虚熱により生じます。漢方では、虚熱が発生しやすい陰液不足の陰虚証を治療することを主体に、微熱を治していきます。

 微熱が長引き、のぼせ、寝汗などの熱証がみられるようなら、「腎陰虚(じんいんきょ)」証です。腎は五臓の1つで、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖、ならびに水液や骨をつかさどる臓腑です。陰は陰液のことで、この腎の陰液(腎陰)が不足している体質が、腎陰虚です。加齢や過労、不規則な生活、大病や慢性的な体調不良、性生活の不摂生などによって腎陰が減ってこの証になります。虚熱タイプです。手のひらや足の裏のほてり、口渇(特に夜間)、尿が濃い、便秘などの症状がみられます。この証の場合は、腎陰を補う漢方薬で微熱を治します。

 微熱のほかに、乾咳や鼻詰まりがみられるようなら、「肺陰虚(はいいんきょ)」証です。肺は五臓の1つで、呼吸をつかさどる臓腑です。この肺の陰液(肺陰)が不足している体質が、この証です。慢性疾患や炎症による津液の消耗などにより、この証になります。痰は出ないか少ない、血痰、喉の乾燥、口渇、寝汗などの症状がみられます。虚熱タイプです。漢方薬で肺の陰液を補い、微熱を治します。

 微熱のほかに、不安感や不眠がみられる場合は、「心気陰両虚(しんきいんりょうきょ)」証です。心は五臓の1つで、心臓を含めた血液循環系(血脈)と、人間の意識や判断、思惟などの人間らしい高次の精神活動(神志:しんし)をつかさどる臓腑です。大脳新皮質など高次の神経系と深く関係しています。この心の機能(心気)と陰液(心陰)が不足している体質が、この証です。

 過度の心労、思い悩み過ぎ、過労が続くと、心に負担がかかり、心気と心陰が消耗してこの証になります。疲労倦怠感、動悸、息切れ、めまい、不安感、胸苦しい、多汗などの心気虚の症状や、不眠、不安感、のぼせ、手のひらや足の裏のほてり、口渇、焦燥感など心陰虚の症状がみられます。虚熱タイプです。漢方薬で心気と心陰を補い、微熱の治療をします。

 微熱とともに、疲労倦怠感が顕著な場合は、「脾気陰両虚(ひきいんりょうきょ)」証です。脾は五臓の1つで、六腑の胃との共同作業で飲食物を消化吸収し、気・血・津液・精の生成源とし、全身に輸送します。この脾の機能(脾気)が低下した証を「脾気虚(ひききょ)」証といいます。 そして脾気虚が進んで脾の血などの物質面(脾陰)も不足した証が、脾気陰両虚です。

 疲労の蓄積や過労、慢性的な体調不良、ストレスの持続、飲食の不摂生などにより、この証になります。元気がない、気力に欠ける、疲れやすい、食欲不振、口渇、唇の乾燥、手足のほてりなどの症状がみられます。虚熱タイプです。脾気と脾陰を補う漢方薬を用いて、微熱を治療します。

 ストレスや自律神経系の乱れが関係しているようなら、「肝火(かんか)」証です。体の諸機能を調節し、情緒を安定させる働き(疏泄:そせつ)を持つ五臓の肝の機能(肝気)が、精神的なストレスや緊張の持続、感情の起伏などの影響によりスムーズに働かなくなり鬱滞し、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証となって熱邪を生み、この証になります。肝は自律神経系と関係が深い臓腑です。

 肝鬱気滞で、憂鬱感、情緒不安定、ため息、残便感などの症状がみられ、されに熱邪の影響で、いらいら、のぼせ、微熱、頭痛、喉の痛み、リンパ節が腫れる、耳鳴り、怒りっぽい、興奮しやすい、などの熱証も生じます。実熱タイプです。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、肝火を鎮め、微熱を治療していきます。

 ウイルス感染による微熱なら、該当する証の1つに「風寒(ふうかん)」証があります。風寒は、風邪と寒邪が合わさったものです。風邪は、自然界の風が引き起こす現象に似た症状が表れる病邪であり、ウイルスや細菌などによる感染症に近い概念です。寒邪は、自然界の寒冷が引き起こす現象に似た症状が表れる病邪です。この風寒が体表から侵入してくると、人体の防御機能が働き、病邪の侵入を阻止し排除すべく体温を上げるため、微熱が生じます。悪寒、頭痛、関節痛、鼻づまり、鼻水などの症状も生じます。

 風寒を発散させて除去する漢方薬で、微熱を治療します。なお高熱を発するようになったら、既に風寒証は通り過ぎ、風熱証や肺熱証など、他の証に移行しています。その場合は漢方薬も別の処方に変える必要があります。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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