DI Onlineのロゴ画像

慢性疲労症候群に効く漢方(1)
慢性疲労症候群の考え方と漢方処方

2019/12/17

 慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome :CFS)は、身体と精神の両方に強い倦怠感が長期間続く疾患です。誰もが日常生活で経験する疲労やただの慢性疲労とは異なり、朝起きた時から、日常生活に支障を来すほどの激しい疲労を感じます。十分な休養を取っても回復しません。

 強い疲労感の他にも、様々な症状が表れます。微熱、喉の痛み、頭痛、思考力の低下、抑うつ状態、睡眠障害(不眠、過眠)、筋力低下、筋肉痛、関節痛、光や音への過敏性、頸部などのリンパ節腫脹などです。20〜50代に発症することが多く、男性より女性に多くみられるようです。一般の慢性疲労と誤解されるのを避けるため、「筋痛症性脳脊髄炎」とも称されます。

 慢性疲労症候群は、免疫系や神経系、内分泌系が関与する疾患だと考えられており、神経伝達物質や脳内血流量の低下とも関係していると言われています。原因については諸説あるものの、ストレスや免疫異常、ウイルス感染などが考えられています。

 西洋医学では、漢方エキス製剤や、ビタミン剤、抗不安薬、抗うつ薬などが処方されています。漢方の中では補中益気湯が使われることが多いようですが、補中益気湯は後述の通り、中気下陥証(臓器を定位置に保持する機能が低下している状態)に使われる処方の1つにすぎません。西洋医学には患者の証という概念がなく、「慢性疲労症候群」という病名から処方を判断するため、患者の証に関わらず補中益気湯エキス剤を処方しているものと考えられます。ただ、効果があるのは全体の1割程度にすぎないでしょう。

 一方、漢方では、病名ではなく患者の証に従って処方を判断します。漢方を少し学ぶと、疲労といえば気虚(証の1つで、「気」が不足している体質)、気虚といえば補中益気湯、と考えがちですが、実際の臨床では慢性疲労症候群で補中益気湯が適しているケースは限られます。むしろ補中益気湯の適応でない五臓の腎、心、肝などが関与しているケースがよくみられます。患者の訴えをよく聞き、証を的確に判断することが重要です。

 強い疲労感とともに、思考力の低下、微熱、体の熱感(特に午後)、寝汗などの症状がみられるようなら、「腎陰虚(じんいんきょ)」証です。腎の陰液(腎陰)が不足している体質です。腎は、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖をつかさどる臓腑です。陰液とは人体の基本的な構成成分のうち血・津液・精を指します。陰液の不足により相対的に陽気が優勢となりますので、微熱や寝汗などの熱証が表れます。この証の場合は、腎陰を補う漢方薬で慢性疲労症候群の治療をします。

 強い疲労感とともに、寝つきが悪い、よく目が覚める、夢をよく見る、朝早く目が覚める、などの不眠症状がみられるようなら、「心血虚(しんけっきょ)」証です。心は五臓の1つで、心臓を含めた血液循環系(血脈)と、人間の意識や判断、思考など高次の精神活動(神志:しんし)をつかさどる臓腑です。大脳新皮質など高次の神経系の働きと深く関係しています。この心の機能を養う心血が不足しているのが、この体質です。過度の心労や悩み、過労などが続くことにより心に負担が掛かり、心血が消耗してこの証になります。漢方薬で心血を潤し、慢性疲労症候群の治療をします。

 強い疲労感とともに、脱力感、動きたがらない、無気力、動作緩慢、しゃべりたがらない、などの症状がみられるようなら、「気血両虚(きけつりょうきょ)」証です。「気虚」と「血虚」の2つの証が同時に生じている状態です。気虚は生命エネルギーを意味する「気」が不足している体質で、過労、生活の不摂生、慢性疾患などにより気を消耗すると、この証になります。血虚は人体に必要な血液や栄養を意味する「血」が不足している体質で、偏食など無頓着な食生活、胃腸機能の低下、出血、慢性疾患などにより、この証になります。脳内血流量の低下とも関係が深い証と考えられます。不足している気血を漢方薬で補うことにより、慢性疲労症候群の治療をします。

 強い疲労感とともに、目が疲れやすい、筋肉の引きつり、筋肉痛、女性の場合は過少月経や稀発月経を伴う場合は、「肝陰虚(かんいんきょ)」証です。肝は五臓の1つで、体の諸機能を調節し、情緒を安定させる機能(疏泄:そせつ)を持つ、自律神経系と関係が深い臓腑です。この肝の陰液(肝陰)が不足している体質が、肝陰虚証です。慢性疾患やストレス、緊張の持続、激しい感情の起伏などの影響で陰液が消耗すると、この証になります。陰液の不足により相対的に陽気が優勢となりますので、熱感、寝汗、口渇などの熱証も表れます。肝の陰液を補う漢方薬で、慢性疲労症候群を治療します。

 強い疲労感とともに、微熱、頭痛、喉の痛み、頸部などのリンパ節の腫脹、などの症状がみられる場合は、「肝火(かんか)」証です。五臓の肝の機能(肝気)が、精神的なストレスや感情の起伏などの影響によりスムーズに働かなくなり鬱滞し、肝鬱気滞(かんうつきたい)証となって熱邪を生み、この証になります。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、肝火を鎮め、慢性疲労症候群を治療していきます。

 強い疲労感とともに、手足がだるい、筋力の低下、食べると眠くなる、などの症状もみられる場合は、「中気下陥(ちゅうきげかん)」証です。中気下陥とは、気の機能の1つである固摂(こせつ)作用(臓器を定位置に保持する機能)が低下している状態です。平滑筋などの筋肉の緊張低下に近い状態です。ベースには胃腸が弱い「脾気虚(ひききょ)」証があります。気の固摂作用を高める漢方薬を用いて、慢性疲労症候群を治療します。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

この記事を読んでいる人におすすめ