
後鼻漏は、鼻水が喉の方へ流れ落ちる症状です。鼻水が喉に垂れてくるため、喉の不快感や異物感、咳き込み、咳払い、痰絡み、さらに睡眠障害、いびきなどの症状も生じます。
実際には、鼻水は健康な状態でも喉の方に流れ落ちて排泄されているのですが、通常はそれに気付くことはありません。しかし鼻水の量が多くなったり粘っこくなったりすると、後鼻漏として自覚するようになります。量が病的に増えているわけではないのに、神経が過敏になっているために後鼻漏と感じてしまう場合もあります。
後鼻漏が生じる背景には、多くの場合、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などの疾患があります。上咽頭部の炎症や、神経過敏、逆流性食道炎、加齢などが関係している場合もあります。
ただ、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎を発症していても、後鼻漏が生じる場合と生じない場合があります。後鼻漏が発生するには、一般的な鼻炎の場合と比べて多量の鼻水、粘度の高い鼻水、鼻粘膜などの炎症、粘膜の肥大、粘膜の乾燥などの要因が関係しています。
西洋医学では、抗アレルギー薬や抗菌薬、ステロイド点鼻薬などが処方されるほか、鼻粘膜などに対してレーザー治療や上咽頭擦過治療(上咽頭に塩化亜鉛溶液を塗布する治療)、切除手術などが行われます。
漢方では、後鼻漏は痰飲(たんいん)と関係が深い症状と捉えています。痰飲とは、人体の基本的な構成成分の1つである津液(しんえき:生命活動に必要な水液)が、水分代謝の失調などにより異常な水液と化したものです。痰飲が体内に停滞すると、体調が悪化します。痰飲により健康を損ねている証を、痰飲証といいます。
後鼻漏の漢方治療は、この痰飲を除去することが基本になります。
まず多くみられるのは、前述した「痰飲(たんいん)」証です。痰飲が鼻腔にたまり、喉の方にあふれ出すと後鼻漏となります。「痰湿(たんしつ)」証とも称されます。痰飲を取り除く漢方薬で後鼻漏の治療に当たります。
咳き込みや鼻詰まりなどの症状が顕著なら、「痰濁上擾(たんだくじょうじょう)」証です。痰飲が頭部に上擾(じょうじょう:上昇してかき乱す)して鼻腔内であふれ出す、あるいは粘膜に浮腫を生じさせることにより、咳き込みや鼻詰まりが引き起こされます。多くの場合、めまい、ふらつき、吐き気などの症状を伴います。「擾」は、乱すという意味の漢字です。痰飲を下降させて除去する漢方薬を用いて後鼻漏を治療します。
後鼻漏が、さらさらと水のように流れ落ちてくるタイプなら、「寒痰(かんたん)」証です。寒痰は、痰飲が寒邪と結び付いたものです。咳嗽、くしゃみ、呼吸困難、冷え症などを伴うことがよくあります。アレルギー性鼻炎にみられることがある証の1つです。漢方薬で寒痰を除去し、後鼻漏を治療します。
後鼻漏が黄色く、粘り気があるようなら、「熱痰(ねったん)」証です。痰飲が熱邪と結び付き、五臓の肺の機能(肺気)を阻滞している証です。痰も多く、後鼻漏や鼻水、痰は、いずれもすっきり排泄されません。咳嗽も伴います。熱痰を排除する漢方薬を用い、後鼻漏を治します。
鼻詰まりが強く、後鼻漏が粘稠で黄色いようなら、「肺熱(はいねつ)」証です。肺は五臓の1つで、呼吸をつかさどる臓腑です(「気をつかさどる」といいます)。また「皮毛をつかさどる」機能もあり、皮膚や粘膜と深い関係にあります。呼吸・水分代謝・体温調節などが、肺の機能です。器官としては、肺などの呼吸器系、鼻、咽喉、皮膚などが五臓の肺に含まれます。この肺に熱邪が侵入すると肺熱証になり、炎症を起こし、後鼻漏が生じます。副鼻腔炎にみられやすい証の1つです。肺熱を除去する漢方薬で炎症を冷まし、鼻水や膿の発生を抑制し、排出を促進し、後鼻漏を治療します。
後鼻漏に口臭や口渇を伴うようなら、「肺陰虚(はいいんきょ)」証です。五臓の肺の陰液が不足している体質です。陰液とは、人体の構成成分のうち、血・津液・精を指します。陰液の不足により相対的に熱が余って熱邪となり、炎症や、口臭、口渇が生じます。後鼻漏の量そのものは多くなくても神経過敏となり、後鼻漏に悩まされることもあります。慢性副鼻腔炎にみられる証の1つです。漢方薬で肺の陰液を補い、後鼻漏を治します。陰液が補われることにより、鼻水や膿が排泄されやすくなります。