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片頭痛に効く漢方(1)
片頭痛の考え方と漢方処方

2019/10/24

 片頭痛とは、頭の片側が拍動に合わせてズキズキと痛むタイプの頭痛です。両側や後頭部が痛むこともあります。痛みは月に数回、多い人では週に1、2回ほどの頻度で生じます。数時間で和らぐ場合もあれば、数日間、痛みが続く場合もあります。頭痛以外に、しばしば吐き気や嘔吐を伴います。

 片頭痛のメカニズムはまだ解明されていませんが、脳の血管の炎症と関係があることが分かっています。例えば、脳の血管が広がると血管周囲に網目状に張り巡らされた三叉神経が刺激を受け、炎症物質を放出して血管に炎症が生じます。この刺激による興奮が脳に伝わり、痛みが発生すると考えられています。痛み発症の引き金となるものには、光、音、におい、低気圧の接近(梅雨時や台風シーズンなど)、血糖値の低下、精神的ストレス、人混み、疲労、過労、睡眠不足などがあります。

 前兆として、片頭痛が起こる前に、キラキラした火花のような光や、ギザギザした光の波が見えることがよくあります(閃輝暗点[せんきあんてん])。生あくびが出たり、肩が凝ったり、異常な空腹を感じたりすることもあります。痛みは、体を動かすと悪化します。女性ホルモンの分泌と関係が深く、患者の多くは女性で、特に20〜40代に集中しています。

 西洋医学では、トリプタン系薬や鎮痛薬などが処方されます。ただし、鎮痛薬を頻繁に飲むと、薬への依存が高まり、頭痛の頻度が増えることがありますので注意が必要です(薬物乱用頭痛)。

 漢方では、人体の基本的な構成成分である(けつ)・津液(しんえき)の流れや量を調整することにより、片頭痛を治療します。脳の血管の拡大は、血や津液の流れと関係が深く、ストレスや疲労は、気の流れと関連しています。

 痛みが生じたときに西洋薬で痛みを抑えるのとは別に、片頭痛そのものを根本的に治療したい場合に漢方薬が活用されています。鎮痛薬やトリプタン系薬の服用量を減らすのを目的に漢方薬が使われる場合もあります。

 片頭痛でよくみられる証(しょう)には、以下のようなものがあります。

 片頭痛がストレスや月経に誘発されやすいようなら、「肝陽化風(かんようかふう)」証です。肝は五臓の1つで、体の諸機能を調節し、情緒を安定させる機能(疏泄[そせつ])を持つ、自律神経系と関係が深い臓腑です。この肝の血(肝血)が足りないと(肝血虚)、肝の機能(肝陽)が不安定となり、ストレスなどの影響で容易に肝気の流れが乱れて肝陽が上昇します(肝陽上亢)。

 この肝陽上亢が強くなる、あるいは長引くと、肝の機能が失調し、内風(肝風)(※)が生じ、肝陽化風証になります。肝陽が頭部まで達し、頭痛のほかに、のぼせ、怒りっぽい、耳鳴り、めまい、ふらつき、ふるえ、引きつりなどの症状が表れます。この証の頭痛を「肝陽頭痛」ともいいます。肝は月経とも関係が深いので、月経前や月経中、排卵期に片頭痛が起こる場合もあります。この証の人に対しては、肝陽を鎮めて肝風を和らげる漢方薬で治療します。

※内風:かぜなどの感染症のように、体外から風邪が侵入したわけではなく、体の中で発生する風邪を内風という。

 疲れた時や体が冷えた時に片頭痛を生じやすいようなら、「脾胃陽虚(ひいようきょ)」証です。脾は五臓の1つで、消化吸収や代謝をつかさどり、気血(エネルギーや栄養)の源を生成します。この脾胃の機能が弱いために、飲食物を十分に消化吸収できず、体内の気血が不足し、さらに熱を生成する気の力が弱くなっている体質が脾胃陽虚証です。疲れや冷えが生じると気血の流れが悪くなり、片頭痛が生じます。慢性的な体調不良や疾患、過労、生活の不摂生、加齢などにより、この証になります。疲れやすい、食欲不振、吐き気、嘔吐、上腹部の冷え、唾液やよだれが多く出る、などの症状もみられます。胃腸の機能を高め、冷えを改善する漢方薬で治療します。

 吐き気、下痢、むくみ、めまいなどが片頭痛に伴ってみられるようなら、「水湿(すいしつ)」証です。水湿とは、水分の吸収や排泄、代謝が滞り、過剰な水分が体内に滞っている状態です。水湿が上昇して頭部の血流量に乱れが生じることが、片頭痛と関連していると思われます。梅雨時や台風シーズンなど、天気や気圧の低下が引き金となって片頭痛が生じることもあります。心窩部の振水音、嘔吐、尿量減少、動悸などの症状もみられます。水滞水邪水毒などとも呼ばれる証です。水湿を取り除く漢方薬で治療を進めます。

 「水湿」証と同じように、吐き気やむくみなどの水液の代謝障害による症状が頭痛に伴い、さらに冷えも関与しているようなら、「寒飲(かんいん)」証です。寒飲とは寒証を伴う痰飲(たんいん)のことで、痰飲とは津液が水分代謝の失調などにより異常な水液と化したものを意味します。体液代謝の失調や低下、炎症、循環障害、ホルモン異常、代謝産物の体内蓄積、暴飲暴食、食事の不摂生、運動不足などにより、痰飲は生じます。片頭痛は、寒飲の影響により起こります。めまい、立ちくらみ、肩凝り、動悸などを伴います。症状は、横になることにより軽減します。この証の頭痛を「痰濁頭痛」ともいいます。寒飲を除去する漢方薬で、片頭痛を治療します。

 同じく寒飲による片頭痛でも、寒飲が激しく体内を上昇して頭痛と嘔吐を引き起こしている場合もあります。「寒飲上逆(かんいんじょうぎゃく)」証です。寒飲が上逆することにより、吃逆(しゃっくり)、よだれやつばが多く出る、などの症状もみられます。おなかや手足の冷えも顕著にみられます。体を温めて寒飲を降ろす漢方薬で治療します。

 寒冷の環境や気候に誘発されやすい片頭痛で、鼻詰まり、鼻水、悪寒などの症状もみられるなら、「風寒(ふうかん)」証です。風寒は、風邪寒邪が合わさったものです。風邪は、自然界の風が引き起こす現象に似た症状が表れる病邪であり、寒邪は、自然界の寒冷が引き起こす現象に似た症状が表れる病邪です。この風寒邪が頭部に侵入すると、片頭痛になります。風寒を発散させて除去する漢方薬で、片頭痛を治療します。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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