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胃潰瘍に効く漢方(1)
胃潰瘍の考え方と漢方処方

2019/06/20

 胃潰瘍は、消化性潰瘍の一種です。消化性潰瘍とは、胃に入ってきた飲食物を消化しようとする胃酸やペプシンなどの「攻撃因子」と、胃壁を守ろうとする粘液などの「防御因子」のバランスが崩れて攻撃因子が強くなり過ぎた状態になり、胃酸やペプシンに胃などの消化管が侵食され、潰瘍が生じた状態です。

 西洋医学では、かつて胃潰瘍は開腹手術により胃を切除するのが一般的でしたが、近年は有効な治療薬が開発され、手術をするケースは激減しています。一方、漢方薬は、「ピロリ除菌をしたが完治しない」「胃潰瘍の薬を飲むのをやめると再発する」「胃潰瘍の再発を繰り返すので根治したい」といった場合に、胃潰瘍ができやすい体質そのものの改善を目的に活用されています。

 胃酸は主成分が塩酸であり、ペプシンは蛋白質を分解する消化酵素です。いずれも胃壁粘膜から分泌されます(正確には、胃壁粘膜から分泌されるのはペプシノーゲンで、塩酸の働きにより蛋白質消化酵素ペプシンになります)。攻守のバランスが崩れ、胃壁が胃酸やペプシンに直接さらされると、蛋白質である胃壁自体が消化されてしまい、潰瘍が生じます。潰瘍とは、胃壁を覆う胃粘膜だけでなく、さらに深く粘膜下層や筋層までもが溶かされてえぐられた状態を指します。粘膜だけが侵食されている状態は、びらんといいます。

 消化性潰瘍には、胃潰瘍のほかに十二指腸潰瘍などがあります。胃潰瘍は40歳以降の人に、十二指腸潰瘍は20~30代の人によくみられます。

 通常は攻撃因子と防御因子が均衡しており、胃壁が侵されることはありませんが、胃酸やペプシンの過剰分泌や、ストレス、アルコール、タバコ、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)感染、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)などの影響により、攻撃因子が増強すると、防御因子が胃壁を守りきれず、潰瘍になります。あるいは粘膜、粘液、粘膜の血流などの防御因子が弱体化することにより、攻撃因子の胃壁への侵入が容易になると、潰瘍になります。

 例えば精神的なストレスや過労が重圧となっている場合には、自律神経の働きが乱れ、胃粘膜の血流循環に障害が生じ、胃酸と胃粘液のバランスが崩れ、粘膜の抵抗性が低下し、粘膜が胃酸の攻撃を受けやすくなり、潰瘍ができます。

 ピロリ菌感染は、幼少期に起こるといわれます。幼少時の衛生環境との関連が指摘されており、例えば子どもの頃に井戸水を飲む機会が多かった人は、高い確率でピロリ菌に感染しています。ピロリ菌に感染した胃には慢性的な炎症が生じ、胃粘膜が萎縮し、粘膜を防御する力が弱まり、胃潰瘍や胃癌になりやすくなります。胃潰瘍患者の70~90%はピロリ菌感染者といわれています。しかし逆にピロリ菌がいなくても胃潰瘍になる人や、ピロリ菌がいるのに胃潰瘍にならない人もいます。

 NSAIDsについては、腰痛や関節炎などにロキソプロフェンナトリウムやイブプロフェンなどが消炎鎮痛薬として日常的に使われていたり、アスピリンが非心原性脳梗塞の二次予防に抗血小板薬として使われていたりしますが、NSAIDsは胃粘膜の重要な防御因子であるプロスタグランジンの産生を抑制するため、粘膜に障害を生じやすくなります。胃粘膜の血管を収縮させるので血液量が減り、修復力も下がります。たまに服用する程度ならそれほど心配はありませんが、NSAIDsを常用している場合、胃潰瘍のリスクは高まります。

 胃潰瘍によくみられる症状は、空腹時あるいは食事中、食後の心窩部痛(みぞおち付近の痛み)、胸やけ、悪心、嘔吐、背痛、そして吐血や下血といった出血などです。

 西洋医学の薬物治療では、H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬(PPI)などにより胃酸分泌を抑制することで、治療に当たります。スクラルファートなどの防御因子強化薬で胃粘膜保護作用を高めたりもします。ピロリ菌が検出された場合は、抗菌薬とPPIを併用して除菌します。

 ただし、消化性潰瘍は高い確率で再発します。服薬中止後2年以内の再発率は65~75%に上るとの報告もあります。従って、一般には対症療法としてこれらの薬を飲み続けることになります。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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