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免疫力の低下に効く漢方(1)
免疫力の低下の考え方と漢方処方

2018/12/20

 免疫力は、病気にならないように人を守ってくれている力です。人が自分にとって有害なものを識別して排除していく防衛機構です。免疫力がたっぷりあれば人は病気になりませんが、免疫力が低下していると容易に病気になったり体調を崩したりします。病気や体調不良になるかどうかは、免疫力の強さが大きく関与しています。

 大気中など外界には無数の病原菌やウイルスが存在し、常に皮膚や粘膜に付着したり、呼吸により鼻、喉、気管支に侵入したりしてきます。このとき免疫力が十分備わっていれば、それらは容易に体内に入ってくることはなく、健康が保たれます。同じ環境で生活していれば同じ程度の細菌やウイルスに接することになりますが、病気になる人とならない人がいるのは、その人の免疫力の強さが違うからです。

 体内においても、免疫は体内の異物を排除して健康体を維持しようと働きます。例えば、癌細胞が体内に生じても、免疫力が強ければ強いほど、それらが増殖したり転移したりするリスクは低くなります。

 免疫力の低下により起こりやすい病気や症状には、癌の他にも各種感染症など、多々あります。具体的には、帯状疱疹、結核、肺炎、歯周病、口内炎、口唇ヘルペス、インフルエンザ、感冒、突発性難聴、尿路感染症、カンジダ症、性器ヘルペス、水虫、便秘、下痢などです。糖尿病や心疾患、慢性疲労症候群になるリスクが高まるという報告もあります。また免疫力が低下していると、病気が治るのに長く時間がかかります。

 日常生活において免疫力が低下する要因は多々あります。疲労の蓄積、暴飲暴食など節度のない食習慣、栄養不足、不規則な生活、ストレス、運動不足、逆に激しい運動、睡眠不足、ファッション重視の薄着など寒冷な環境、乾燥、逆にじめじめとした環境、加齢、喫煙、西洋薬の使い過ぎなどです。

 免疫力と病気との戦いにおいて、西洋医学では病因の排除や症状の緩和を重視します。症状が緩和されると楽になりますが、例えば人体が自ら免疫力を高めるための発熱(体温上昇)や、異物を排除するための咳などを西洋薬で抑え込んでしまうために、かえって病原体が長く体内に居座り続けることになり、病気が長引くことがあります。作用の強い西洋薬により免疫力自体が落ちることもあります。

 漢方では、西洋医学とは逆に、免疫力の強化を重視します。もちろん病因の排除も大切ですが、免疫力が十分でないと病気が長引き慢性化したり再発したりするので、最終的には免疫力の強化が重要だと漢方では考えます。

 免疫力が低下する要因には、五臓六腑のバランスの不均衡、あるいは気・血(けつ)・津液(しんえき)・精(せい)の不足や停滞など、様々な証が関係してきます。五臓六腑のバランスが失調している場合は、その弱いところを漢方薬で補うなどして体質を改善し、免疫力を根本から高めていきます。

 人体が持つ生命力や抵抗力のことを漢方で正気(せいき)といいます。漢方では、漢方薬で五臓六腑のバランスを調えるなどして正気を強めていくことにより、免疫力を高めていきます。

 免疫力低下の証には、以下のようなものがあります。

 呼吸器や鼻、喉、皮膚で炎症や感染症を繰り返すようなら、五臓のの機能の失調が考えられます。よくみられるのは、「肺陰虚(はいいんきょ)」証です。肺は五臓の1つで、呼吸をつかさどる臓腑です(「気をつかさどる」といいます)。また「皮毛をつかさどる」機能もあり、皮膚と深い関係にあります。さらに肺は「鼻に開竅(かいきょう)する」といい、鼻を肺と関連が深い器官と捉えています。鼻のことを肺竅(はいきょう)ともいいます。この肺の陰液(肺陰)が不足している体質が、この証です。陰液とは、人体の構成成分のうち、血・津液・精を指します。粘膜などが十分潤わないために病原体に感染しやすくなっています。慢性疾患や炎症による津液の消耗などにより、この証になります。アレルギーとも関係が深い証です。漢方薬で肺の陰液を補い、免疫力を強めていきます。

 疲れがたまると消化器の粘膜などで炎症などが生じやすい体質なら、「脾気虚(ひききょ)」証です。消化吸収や代謝をつかさどり、気血(エネルギーや栄養)の源を生成する五臓のの機能(脾気)が弱い体質です。(き)は免疫力を含む生命エネルギーを意味しますが、その気が十分脾で生成されないために体内の気が不足し、免疫力が低下します。加齢、過労、生活の不摂生、慢性疾患などにより脾気を消耗すると、この証になります。漢方薬で脾気を強めることにより、免疫力低下の治療を進めます。

 ストレスを受けて免疫力が下がることもよくあります。みられることが多いのは、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。体の諸機能を調節し、情緒を安定させる働き(疏泄[そせつ])を持つ臓腑である五臓のの機能(肝気)がスムーズに働いていない体質です。肝は自律神経系と関係が深い臓腑です。一般に、精神的なストレスや、緊張の持続などにより、この証になります。気血が全身に行き渡らなくなるため、免疫力が低下します。併せて、いらいら、落ち込み、情緒不安定などの症状がみられます。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、免疫力低下を治していきます。

 全体的に免疫力が低下しているようなら、「腎陽虚(じんようきょ)」証です。の陽気が不足している体質です。腎は、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖をつかさどる臓腑です。また「水、骨、納気をつかさどる」臓腑として、体液の代謝全般の調節、骨の形成、呼吸(特に吸気)をつかさどる機能もあります。陽気とは気のことで、人体の構成成分を陰陽に分けて考える場合、陰液と対比させて気のことを陽気と呼びます。腎陽の衰えは正気の減衰につながり、免疫力の低下を招きます。加齢とともに生じやすい証ですが、加齢だけでなく、過労、生活の不摂生、慢性疾患による体力低下などによっても人体の機能が衰え、冷えが生じてこの証になります。腎陽を補う漢方薬で、免疫力を高めていきます。

 今回と次回で、日常的によくみられがちな症例を3つ紹介します。癌の漢方治療についてはこちらなど、その他の病気や症状の個別の解説ページもありますので、必要に応じて参考にしてください。

■症例1

「忙しくなり寝不足が続くと、口唇ヘルペスが繰り返し出てきます。口内炎にもなりやすく、体調が悪いときは歯ブラシの先が頬の内側に当たっただけで口内炎になります」

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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