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卵巣嚢腫に効く漢方(1)
卵巣嚢腫の考え方と漢方処方

2018/07/10

 卵巣嚢腫(卵巣のう腫)は、卵巣の中にできた袋状の腫瘍の中に液体などがたまり、卵巣が腫れる病気です。卵巣にできる腫瘍のうち、触れると軟らかい卵巣嚢腫はその多くが良性で、固いしこりが触れる腫瘍(充実性腫瘍)には、悪性の卵巣癌などがみられます。

 卵巣嚢腫には、卵巣から分泌される透明のさらさらとした水のような液体がたまる漿液性(しょうえきせい)嚢胞、どろっとした粘液がたまる粘液性嚢胞、卵巣内の胚細胞にできて歯や毛髪などを含む脂肪がたまる皮様嚢腫、子宮内膜症が卵巣内に発症し、月経のたびに古い血液がたまっていく子宮内膜症性嚢胞があります。子宮内膜症性嚢胞は、古い血液の色からチョコレート嚢胞とも呼ばれます。漿液性嚢胞は主に40~60代の女性に、粘液性嚢胞は閉経後女性を含む幅広い年代に、皮様嚢腫とチョコレート嚢胞は20~30代の女性に多いとされています。

 卵巣は子宮の左右にあり、2~3cmの大きさでアーモンドのような形をしています。卵巣嚢腫の初期段階では自覚症状はほとんどありませんが、進行して肥大化してくると、外側から触れて気づいたり、下腹部に違和感が生じたり、ふくらんだ感じがしたり、腹痛や腰痛、便秘、頻尿などの症状が表れたりします。さらに大きくなると、卵巣を支えている靭帯ごと卵巣が根元からねじれてしまうことがあります(茎捻転[けいねんてん])。激痛に見舞われ、破裂する危険が生じます。

 漢方では、卵巣嚢腫の形成には、人体の基本的な構成成分である(き)・(けつ)・津液(しんえき)の流れの停滞が深く関係していると捉えています。気は生きるために必要な生命エネルギー、血は生命活動に必要な血液や栄養、津液は体内の全ての水液に近い概念です。それらの流れが滞りやすい体質が改善されない限り、卵巣嚢腫は大きくなったり再発したりします。手術のように一瞬にして卵巣嚢腫を取り除く力はありませんが、漢方薬で気・血・津液の流れを改善することにより、「卵巣嚢腫ができやすい体質」そのものを改善していきます。

 卵巣嚢腫によくみられる証には、以下のようなものがあります。

 腫れ、できもの、しこりなど、腫瘤ができやすい体質が根本にあるようなら、「痰湿(たんしつ)」証です。痰湿というのは、体内にたまった過剰な水湿のことです。この痰湿が卵巣にたまり、卵巣嚢腫を形成します。卵巣嚢腫以外にも、子宮筋腫、ポリープ、いぼ、乳腺腫、甲状腺腫、腫瘍などができやすい体質です。体液代謝の失調や低下や、炎症、循環障害、ホルモン異常、代謝産物の体内蓄積、食べ過ぎ、食事の不摂生などによってこの証になります。「痰湿凝結(たんしつぎょうけつ)」証ともいいます。痰湿は「痰飲(たんいん)」とも称され、全身に広がり分布するものを湿、水様でさらさらと流動性の高い液体を水飲あるいは、粘稠で流動性が低い半凝固状態のものをなどと区別する場合もあります。痰湿を取り除く漢方薬で「卵巣嚢腫ができやすい体質」を改善し、卵巣嚢腫の治療に当たります。

 ストレスによるいらいら、落ち込み、情緒不安定、月経前の乳房の張りなどが強いようなら、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。体の諸機能を調節し、情緒を安定させる働き(疏泄[そせつ])を持つ臓腑である五臓の肝(かん)の機能(肝気)が、ストレスや感情の起伏の影響によりスムーズに働いていない体質です。一般に、精神的なストレスや、緊張の持続などにより、この証になります。ストレスの影響などで気の流れが滞ると、卵巣嚢腫ができやすくなります。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、卵巣嚢腫ができにくい体質を作っていきます。

 下腹部痛、頭痛、肩凝り、冷えのぼせが強い、などの症状を伴うようなら、「血瘀(けつお)」証です。血流が鬱滞しやすい体質です。精神的ストレスや、寒冷などの生活環境、不適切な食生活、運動不足、体内の水液の停滞、生理機能の低下などによって生じます。疾患や体調不良が慢性化、長期化してこの証になる場合もあります。下腹部の血流が滞ることにより、卵巣嚢腫ができやすくなります。血行を促進する漢方薬で血流を改善し、卵巣嚢腫の治療を進めます。

 子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)については、本連載の子宮内膜症のページも参考にしてください。

■症例1

「卵巣嚢腫があります。去年から下腹部に違和感を覚えるようになりました。最近、排卵期になると下腹部の同じ場所が痛むようになったので婦人科を受診したところ、嚢腫が5cmの大きさになっていると診断されました。手術を勧められていますが、したくありません」

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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