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痔に効く漢方(1)
痔の考え方と漢方処方

2018/04/13

 肛門やその付近に生じる病気を総称してと呼んでいます。痔には、痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔瘻(あな痔)などがあります。多いのは、痔核と裂肛です。

 痔核は、肛門付近がいぼのように腫れて起こる痔です。いぼ痔と呼ばれています。肛門の内側(直腸粘膜)に生じる内痔核と、肛門の外側(皮膚)に生じる外痔核とがあります。肛門の内側の直腸粘膜には知覚神経が通っていないので内痔核があっても痛みを感じませんが、肛門の外側の肛門上皮には知覚神経が通っているため、外痔核は痛みを伴います。内痔核などの直腸粘膜が肛門の外に押し出された状態を、脱肛といいます。

 裂肛は、肛門部分の皮膚である肛門上皮が切れる痔です。切れ痔と呼ばれています。肛門上皮には知覚神経が通っているため、痛みが生じます。

 痔瘻は、肛門に細菌が感染して生じた膿が肛門周囲にたまり(肛門周囲膿瘍)、直腸と肛門付近の皮膚の間に膿が通る穴(トンネル)が生じる痔です。あな痔と呼ばれています。

 痔になる原因には、便秘や下痢、排便時のいきみなどによる肛門への圧力や負荷、長時間にわたる座りっぱなしの姿勢、肛門部の鬱血、アルコールや刺激物の取り過ぎ、冷え、ストレスなどがあります。

 漢方では、患者の体質(証)に合わせた漢方薬を用いて、肛門部の鬱血を除去し、便通を調え、冷えを解消し、ストレスに対する抵抗性を高めて腸の蠕動運動を正常化するなどして、痔の根本治療をしています。

 痔によくみられる証には、以下のようなものがあります。

 痔核や裂肛で、便がねっとりと粘性で、しかもすっきり出ないようなら、「湿熱(しつねつ)」証です。湿熱は体内で過剰な湿邪と熱邪が結合したものです。清潔とはいえない生活環境や、脂っこいもの、刺激物、味の濃いもの、生もの、アルコール類の日常的摂取や大量摂取、不潔なものの飲食、あるいは細菌の肛門への侵入などにより、この証になります。大腸における湿熱なので、「大腸湿熱(だいちょうしつねつ)」証とも呼ばれます。漢方薬で肛門部の血行を改善しつつ湿熱を除去し、痔を治療していきます。

 痔核などで、便が硬く乾燥しているようなら、「実熱燥結(じつねつそうけつ)」証です。旺盛な熱邪により津液が減少している証です。暴飲暴食や、腸管の炎症、ストレスによる自律神経の過亢進などにより、この証になります。大腸における実熱(じつねつ)に相当します。腸の実熱を冷ます漢方薬で、痔を治療します。

 裂肛などで、便が硬く乾燥し、口渇を伴うようなら、「陰虚燥結(いんきょそうけつ)」証です。陰液の不足が大腸に影響を及ぼすと、この証になります。便はころころとしており、うさぎの糞のようで、少量しか出ません。大腸における虚熱(きょねつ)に相当します。腸を潤して虚熱を除去する漢方薬で、痔を治します。

 肛門部の鬱血が顕著なら、「血瘀(けつお)」証の治療をします。血瘀は、血流が鬱滞しやすい体質です。精神的ストレスや、寒冷などの生活環境、不適切な食生活、運動不足、体内の水液の停滞、生理機能の低下などによって生じます。疾患や体調不良が慢性化、長期化してこの証になる場合もあります。漢方薬で便通を調えつつ血行を促進し、痔の治療をします。

 脱肛によくみられるのは、「中気下陥(ちゅうきげかん)」証です。中気下陥とは、気の機能の1つである固摂(こせつ)作用(臓器を定位置にとどめる機能)が低下している状態です。平滑筋など筋肉の緊張低下に近い状態です。このため、内痔核など肛門の内側にある直腸粘膜が肛門の外に押し出され、脱肛になります。ベースには胃腸が弱い「脾気虚(ひききょ)」証があります。気の固摂作用を高める漢方薬を用いて、痔を治します。

 痔瘻によくみられるのは、「気虚風湿熱(ききょふうしつねつ)」証です。虚弱体質や疲労の蓄積により免疫力が低下している状態(気虚)であるために、化膿した部分からいつまでも膿(風湿熱邪)が排出できない体質です。患者に体力を付けて体内から膿を排出していく漢方薬で、痔を治療します。


■症例1

「いぼ痔です。痛みはありませんが、排便時にいぼが押し出されて、指で押し込まないと、元に戻らない状態です」

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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