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多汗と体臭に効く漢方(1)
汗と体臭の考え方と漢方処方

2017/08/21

 皮膚には小さな穴がたくさん開いています。体臭のもとは、そこから出てきています。

 皮膚に開いている小さな穴は、主に毛穴と、汗の出る穴(汗孔)です。汗は主に汗孔の奥にあるエクリン腺で作られ、体表に出てきます。エクリン腺からの汗(エクリン汗)は気温が高いときや運動をしたときに出てきて、その気化熱で体温を下げる働きをしています。もし汗が出ないと、真夏の直射日光の下では体温がすぐ40℃を超え、生命の危険が生じます。正常な発汗は、我々が健康であることの証です。

 思春期になってから腋窩(わきの下)や陰部で発育してくるアポクリン腺からの汗(アポクリン汗)もあります。アポクリン腺は毛穴の奥の方に開いています。アポクリン汗は、量としては少ないのですが、蛋白質の含有量が多いために独特の臭いがします。

 運動や、高温多湿の環境、ストレスや緊張、辛いものを食べたときなどの発汗は正常ですが、必要以上に汗が出る状態を多汗症といいます。全身に汗をかく場合もありますし、精神的な緊張や興奮により、手のひらや足の裏、顔面、腋窩、陰部などに局所的に発汗する場合もあります。

 多汗症とはいえないまでも、ちょっとした体調の不調や精神的なストレスなどにより汗をたくさんかくこともよくあります。全身的な多汗は、肥満、糖尿病、発熱性疾患、甲状腺機能亢進、交感神経の緊張、便秘、皮膚炎、閉経などとも関係があります。必要以上にだらだらと流れる汗は不快なものです。

 汗は放っておくと、皮膚表面に常在する雑菌が繁殖し始めます。その雑菌が汗や皮脂、垢(あか)の成分を分解、酸化することにより、臭いが発生します。またアポクリン汗による独特の臭いが顕著な場合もあります(腋臭症[わきが])。汗ばむ環境や季節で体臭を気にする人は少なくありません。

 漢方では、汗は津液(しんえき)が変化したものと捉えています。津液とは、体内で生命活動に必要な水液のことです。そして汗のコントロールをしているのは、衛気(えき)です。衛気は気の一種で、体表を守り、外界からの病邪の侵入から人体を防衛し、体液や汗を管理し、体温を調整します。したがって多汗は、衛気の不足や、衛気をつかさどる肺(はい)、衛気の流れの調節をする肝(かん)、汗と関係の深い心(しん)などの臓腑の失調により生じます。

 体臭については熱邪(ねつじゃ)が深く関与しています。熱邪は、自然界の火熱により生じる現象に似た症状を引き起こす病邪で、炎症、化膿、熱感、発熱、充血、疼痛、出血などの熱証を表します。体臭も、熱証の1つです。

 熱邪には2つのタイプがあります。熱邪の勢いが盛んな実熱(じつねつ)と、熱を冷ますのに必要とされる陰液が不足しているために、相対的に熱邪が強まって生じる虚熱(きょねつ)です。漢方では熱邪が実熱か虚熱かにより、処方を使い分けます。

 多汗や体臭によくみられる証には、以下のようなものがあります。

 衛気の不足が原因で汗が漏れ出ているようなら、「肺衛不固(はいえふこ)」証です。肺は五臓の1つで、衛気をつかさどり、汗の分泌を調整します。肺の機能が弱いと衛気が不足し、汗が漏れ出るのを防ぐことができず、必要以上に汗が出ます。気の不足が基本ですので、ちょっと動いただけで汗が出たり、ちょっと暑いだけで汗ばんだりします。肺気を補う漢方薬で衛気を強め、多汗を改善していきます。

 心労による疲労倦怠感、動悸、息切れなどがみられるようなら、「心気虚(しんききょ)」証です。五臓の心(しん)の機能(心気)が低下している状態です。心は、心臓を含めた血液循環系(血脈)と、人間の意識や判断、思惟などの人間らしい高次の精神活動(神志[しんし])をつかさどります。考え過ぎや、心労の積み重ねにより、心気の不足が生じ、めまい、不安感、胸苦しい、などの症状とともに、衛気が衰えて多汗が表れます。漢方では「汗は心液である」といい、心の病変があると発汗が多くなります。ベースとなる気力や体力が弱いので、普通の人なら気にならないことでも気になってしまうところがあります。冷や汗の多くは、この証です。この証の場合は、心気を漢方薬で補うことで心の機能を強化し、多汗を治療します。

 上記の2つの証でも体臭は強まりますが、より強く体臭が生じるのは、熱邪を伴う以下の証です。

 精神的なストレスや感情の起伏などが引き金となって汗や体臭が出ているようなら、「肝火(かんか)」証です。体の諸機能を調節し、情緒を安定させる働き(疏泄[そせつ])を持つ五臓の肝の機能(肝気)が、ストレスなどの影響によりスムーズに働かなくなり鬱滞し、肝鬱気滞(かんうつきたい)証となって熱邪を生み、それが多汗や体臭を生じさせます。実熱タイプです。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、肝火を鎮め、多汗や体臭を治療していきます。

 べっとりと熱っぽい汗や体臭が生じているようなら、「湿熱(しつねつ)」証です。湿熱は体内で過剰な湿邪と熱邪が結合したものです。清潔とはいえない生活環境や、脂っこいもの、刺激物、味の濃いもの、生もの、アルコール類の日常的摂取や大量摂取、不潔なものの飲食などにより、この証になります。湿熱が漏れ出ることにより、べっとりと熱っぽい汗や体臭となります。実熱タイプです。邪熱鬱蒸(じゃねつうつじょう)証ともいいます。漢方薬で湿熱を除去し、多汗や体臭を改善していきます。

 慢性的な体調不良や過労、生活の不摂生、緊張の連続、老化などにより陰液が消耗し、体臭が強くなる場合もあります。この証を、「陰虚火旺(いんきょかおう)」といいます。陰液とは、人体の構成成分のうち、血(けつ)・津液(しんえき)・精(せい)を指します。陰液が消耗すると、相対的に熱邪が旺盛になって機能が亢進し、熱感、発汗、体臭などの熱証が表れます。虚熱タイプです。加齢臭の多くは、このタイプです。特に午後から夕方にかけて症状が強まります。陰虚内熱(いんきょないねつ)証ともいいます。漢方薬で陰液を潤し、熱証を冷ますことにより、体臭を改善していきます。

■症例1

「汗っかきで、夏が苦手です。ちょっと外出しただけで、すぐ汗がたらたらと出てきます。周りの人たちよりも明らかに汗をかき、夏はタオルが手放せません」

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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