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湿疹(皮膚炎)に効く漢方(1)
湿疹(皮膚炎)の考え方と漢方処方

2017/05/11

 湿疹(皮膚炎)は、皮膚に起こる炎症です。発生から治癒まで、赤くなったり、膨らんだり、じくじくしたり、かさぶたができたりと、様々な形態に変化します。慢性化して慢性湿疹となる場合も少なくありません。

 まず炎症が生じると、毛細血管が拡張して赤い斑点になります(紅斑[こうはん])。静脈からの滲出が進むと膨らんでぶつぶつになり(丘疹)、さらに小さな水膨れとなります(小水疱)。水疱が化膿して中身が膿になると、膿疱(のうほう)です。

 やがて水疱や膿疱が破れ、中の液体が漏れ出てじくじくしてきます(湿潤)。糜爛(びらん)ともいいます。この浸出液が固まると、かさぶた(痂皮[かひ])になります(結痂[けっか])。そして炎症が生じていた皮膚が剥がれ落ちます(落屑[らくせつ])。

 表皮が落屑して治癒すればいいのですが、炎症を繰り返すうちに皮膚が厚くなり(肥厚)、硬くざらざらになる(苔癬化[たいせんか])場合もあります。これが慢性湿疹です。色素沈着もみられます。

 湿疹の原因には、化粧品や洗剤などの化学物質、ハウスダストや花粉や金属などのアレルゲン、日光や衣服などの物理的刺激、細菌といった外的因子と、皮脂や汗の分泌状態、寝不足などの健康状態、アレルギー体質といった内的因子があり、これらが影響しあって湿疹が形成されます。

 治療に際しては、西洋医学では皮膚の炎症を抑えるステロイド外用薬や、痒みを抑える抗アレルギー薬などが一般的ですが、漢方では、湿疹に対しても、証に合わせて処方します。

 例えば丘疹や小水疱、膿疱、糜爛などは湿証が、そしてその後に生じる結痂や落屑、肥厚、苔癬化などは湿証とは逆に燥証が強い段階であるとみます。紅斑や膿疱、糜爛は熱証が強い状態です。色素沈着には「血瘀(けつお)」証も関与しています。痒みには風邪(ふうじゃ)の存在も見逃せません。

 ただし、湿疹という病変の局部的な証だけを弁別していては、証の判断を誤ります。局部的な証だけでなく、患者の体質という全体的な証もみる必要があります。特に慢性湿疹の場合は、局部的な証に大きく左右されることなく、患者その人の全体的な証に従って治療することが、湿疹の根本治療に欠かせません。

 湿疹によくみられる証には、以下のようなものがあります。

 湿疹が赤く(紅斑)、あるいは化膿し(膿疱)、時に熱感や疼痛を伴うようなら、「熱毒(ねつどく)」証です。熱毒は、化膿性、あるいは激しい炎症に相当します。全体的な症候としては、口の渇き、唇の乾燥、発熱、もやもやと落ち着かない不安感や不快感(煩躁)などがみられます。漢方薬で熱毒を冷まし、湿疹を治療します。

 水疱や糜爛がみられるようなら、「痰湿(たんしつ)」証です。痰湿というのは、体内にたまった過剰な水分や湿気のことです。痰湿が皮膚で水疱や糜爛を形づくっています。全体的な症候としては、食欲不振、おなかが脹る、立ちくらみ、舌がぽってりと大きい、舌に歯形が付くなどがあります。痰湿を取り除く漢方薬で湿疹を治していきます。

 上記の熱毒と痰湿の2つの症状が同時にみられるようなら、「湿熱(しつねつ)」証です。湿熱は、熱邪と湿邪が結合したものです。漢方薬で湿熱を除去し、湿疹を治療していきます。

 上記の湿熱の症状に加え、強い痒みがあり、湿疹が広がる傾向にあるようなら、「風湿熱(ふうしつねつ)」証です。風湿熱は、風邪と湿邪と熱邪が結合したものです。風邪は、自然界の風により生じる現象に似た症候を引き起こす病邪で、風のように発病が急で、変化が多く、体表部や呼吸器を侵すことが多い病邪です。患部があちらこちらと移動しやすく(遊走性)、また患部が拡大しやすいという特徴があります。風湿熱証の全体的な症候として、熱毒や痰湿の症候に加え、悪寒、頭痛などもみられます。風湿熱を除去する漢方薬で湿疹を治します。

 皮脂が分泌されにくく、皮膚が乾燥しているようなら、「血虚(けっきょ)」証です。血(けつ)は、人体の構成成分の1つで、血液や血液が運ぶ栄養という意味があります。この血の量が欠乏している体質が、血虚です。落屑や肥厚も生じます。全体的な症候として、顔色が悪い、眼がかすむ、爪がもろい、ふらつき、動悸などがみられます。漢方薬で血を補い、湿疹を治していきます。

 乾燥などの血虚の症状に加え、痒みが強いようなら、「血虚生風(けっきょしょうふう)」証です。血虚に伴い風邪が生じている証です。漢方薬で血を補いつつ風邪を除去し、湿疹を治療します。

 乾燥などの血虚の症状に加えて、紅斑などの熱毒の症状もみられるなら、「血虚血熱(けっきょけつねつ)」証です。血を補い、熱毒を冷ます漢方薬で湿疹を治します。

 ストレスの影響で湿疹が悪化するようなら、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。体の諸機能を調節(疏泄[そせつ])する臓腑である五臓の肝の機能(肝気)がスムーズに働いていない体質です。一般に、精神的なストレスや、緊張の持続などにより、この証になります。全体的な症候として、いらいら、落ち込み、情緒不安定などがみられます。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、湿疹を治していきます。

 湿疹の肥厚や角化(角質化)、色素沈着などがみられるようなら、「血瘀(けつお)」証です。血流が鬱滞しやすい体質です。精神的ストレスや、冷え、体内の水液の停滞、生理機能の低下などにより、この証になります。疾患や体調不良が慢性化、長期化してこの証になる場合もあります。全体的な症候として、下腹部痛、頭痛、肩凝り、冷えのぼせなどがみられます。血行を促進する漢方薬で血流を改善し、湿疹の治療を進めます。

■症例1

「残業続きで仕事のストレスが続き、寝不足で疲れていたせいか、かぜを引きました。熱が少し引き始めた頃から、急に全身に湿疹が出てきました」

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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