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吐き気・嘔吐に効く漢方(1)
吐き気・嘔吐の考え方と漢方処方

2017/02/16

 吐き気や嘔吐は、もともとは不潔なものや消化の悪いものの摂取、あるいは脂っこいものや冷たいものの食べ過ぎ、そしてアルコール類の飲み過ぎなどに対して、体が自分を守るために、それらを体外に排出することにより起こる生理的な反応です。乗り物酔いや、妊娠時のつわりでも生じます。

 そのような原因が明らかな場合の吐き気や嘔吐なら、対症療法で症状は回復します。しかし、原因がはっきりしないのに吐き気や嘔吐を繰り返したり長引かせたりするケースも少なくありません。そのような場合は漢方薬で体質から改善しておくといいでしょう。

 吐き気や嘔吐は、「五臓六腑の胃の機能(胃気)の失調による症状」と、漢方では捉えています。

 六腑の胃は、五臓の脾と協力し合いながら飲食物の消化吸収をつかさどります。まず胃が飲食物を受け入れ(受納)、消化し(腐熟)、食べたものを人体に有用な形(清)に変化させてそれを脾に渡し、その残りかす(濁)を下の小腸・大腸に降ろします(降濁)。脾は、清を吸収して肺に持ち上げ(昇清)、気血を生成し、全身に輸送します(運化)。このうち、特に吐き気や嘔吐と関係が深いのは、胃の受納、降濁機能の失調です。下降すべきものが、逆に上逆している状態です。

 吐き気・嘔吐によくみられる証には、以下のようなものがあります。

 慢性的な体調不良や疾患、過労などにより胃気が弱っている体質なら、「胃気虚(いききょ)」証です。胃の受納や降濁機能が低下するに従い、食欲不振、胃のつかえ、少ししか食べられない、吐き気、嘔吐などが生じます。消化能力や胃の蠕動運動が低下している状態です。胃気を下降させて胃の機能を立て直す漢方薬を用いて吐き気・嘔吐を改善します。

 胃気虚が長期化、あるいは悪化し、冷えが生じる証もあります。「胃陽虚(いようきょ)」証です。胃気の低下により、体を温める気の力が衰え、この証になります。吐き気、嘔吐、食欲不振など胃気虚の症状のほかに、胃の辺り(上腹部)の冷え、痛み、唾液やよだれが多く出るなどの症状も表れます。胃を温めて胃気を高める漢方薬を用います。

 胃液など、胃の陰液が消耗し、乾嘔(からえずき)が生じているようなら、「胃陰虚(いいんきょ)」証です。胃の陰液が不足している体質です。陰液が少ないために相対的に熱が余るため、乾嘔、口臭などが生じます。陰液不足で乾燥するので口渇が生じ、口の中が粘つく、唾液が少ない、胸やけなどの症状が表れます。飲食物の受納、腐熟、降濁ができないため、お腹はすくけれども食べられない状態になります。胃の陰液を補う漢方薬で、吐き気・嘔吐を治していきます。

 精神的なストレスにより、吐き気や嘔吐が生じる場合もよくあります。「肝気犯胃(かんきはんい)」証です。体の諸機能を調節(疏泄[そせつ])する臓腑である五臓の肝の機能(肝気)が滞り、その影響が胃に及んで胃気が停滞、上逆し、吐き気や嘔吐が起こります。ストレスや、緊張の持続、激しい感情の起伏などの影響で肝気が失調することにより、この証になります。肝気の鬱結を和らげつつ胃気を回復させる漢方薬を用い、吐き気・嘔吐を治します。

 過度の飲酒の習慣や、脂っこいもの、味の濃いものを好む食習慣により吐き気や嘔吐が引き起こされているならば、「痰湿(たんしつ)」証です。痰湿というのは、体内に溜まった過剰な水分や湿気のことです。飲食の不摂生により生じた痰湿が、胃気を阻滞、上昇させ、吐き気・嘔吐が生じます。腹部膨満感や胃のつかえ感もみられます。痰湿を取り除く漢方薬で体質を改善し、吐き気・嘔吐を治していきます。

 痰湿が熱を帯びた「湿熱(しつねつ)」証もあります。湿熱は体内で過剰な湿邪と熱邪が結合したものです。痰湿の長期化、あるいは、脂っこいもの、刺激物、味の濃いもの、生もの、アルコール類の日常的摂取や大量摂取、不潔なものの飲食などにより、この証になります。胃に炎症がある状態です。湿熱邪が胃気を阻害することにより、吐き気や嘔吐が慢性化します。漢方薬で湿熱を除去し、吐き気・嘔吐を改善していきます。

 胃部でごろごろと音が鳴ったり(グル音)、胃部を叩くとちゃぽちゃぽと音がしたり(振水音)するようなら、「胃内停水(いないていすい)」証です。脾の運輸機能が弱いために胃内の水分を吸収できず、胃内に水飲(過剰な水分)が停滞している状態です。胃中にいつまでも水分が停留するために飲食物が下降していかず、上逆し、吐き気や嘔吐となります。漢方薬で胃内の水飲を除去し、吐き気・嘔吐を治します。

■症例1

「残業続きで疲れています。仕事のストレスも相当で、このところ吐き気が続いています」

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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