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月経前症候群(PMS)に効く漢方(1)
月経前症候群(PMS)の考え方と漢方処方

2017/01/16

 月経前症候群(PMS)とは、女性の排卵から月経開始までの間に表れる、様々な肉体的、精神的不快症状のことです。さほど気にならない人もいれば、日常生活や社会生活に支障が生じるほどの人もいます。程度の差はありますが、女性のおよそ8割が経験しているようです。特に精神症状が強く、生活に支障が出るほどの場合は月経前不快気分障害(PMDD)といいます。

 症状は多岐にわたり、下腹部の張りや痛み、乳房の張りや痛み、頭痛、肩凝り、吐き気、腰痛、むくみ、体重の増加、にきび、肌荒れ、動悸、めまい、便秘、下痢、鼻血などの出血といった身体症状や、いらいら、落ち込み、怒りっぽくなる、憂鬱感、わけもなく悲しくなる、情緒不安定、無気力、のぼせ、疲労倦怠感、不安感、集中力の低下、食欲増進、特に甘いものが食べたくなる、強い眠気、あるいは逆の現象である不眠といった精神症状があります。

 西洋医学的には、排卵後に生じるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)のバランスの変化や、その影響で起こる神経伝達物質の変動などに伴う体調の変化が、PMSとして表れてくると考えられています。治療には、経口避妊薬(ピル)や、抗不安薬、抗うつ薬などを使い、PMSの諸症状を抑えます。

 漢方では、人体の基本的な構成成分である気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)が体内にたまり過ぎた結果として生じる症候がPMSだと捉えています。排卵後は、妊娠が成立した場合に備え、高温期となり、女性の体は、お腹の中の胎児の発育に必要な気・血・津液をため込んでおこうと準備を始めます。これは全く自然なことです。しかしこれが過度になると不快な症状が生じ、PMSとなるわけです。

 さらに重要なのは、気・血・津液の流れを調整する五臓の肝(かん)の働きです。肝は、体の諸機能を調節し、情緒を安定させるのが主な働きです(疏泄[そせつ])。この肝がホルモンバランスの変化という刺激を受けて失調すると、体内の気・血・津液の流れが滞り、PMSの諸症状が生じます。

 ホルモン内分泌系と関係が深い五臓の腎の機能失調も、PMSの要因となります。腎は、気や血の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖、並びに水液や骨をつかさどります。従って、女性ホルモンの量やバランスと関係が深い臓腑です。この腎の機能が安定していないと、PMSの症状が出やすくなります。

 月経前症候群(PMS)によくみられる証には、以下のようなものがあります。

 いらいら、落ち込み、情緒不安定、乳房の張りなどが強いようなら、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。五臓の肝の機能(肝気)がスムーズに働いていない体質です。一般に、ストレスや緊張の持続などによりこの証になりますが、排卵後のホルモンバランスの変化の影響でもこの証になり、PMSが生じます。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、PMSを治療します。

 同じく乳房の張りや痛みが強い場合でも、めまい、鼻血などの出血といった症状を伴うようなら、「肝腎陰虚(かんじんいんきょ)」証です。五臓の肝と腎の陰液が少ない体質です。陰液とは、人体の構成成分のうち、血・津液・精を指します。もともと肝腎陰虚証の人に、高温期に入って体温が上がることにより熱証が顕著に表れると、PMSとなります。この証には、肝腎の陰液を補う漢方薬を使います。

 肝鬱気滞に加えて、のぼせ、頭痛、感情の起伏が激しい、興奮しやすいなどの症状が強いなら、肝鬱気滞が熱を帯びて生じる「肝火(かんか)」証です。伴う熱感は、落ち着かず、煩わしい不快な熱感(煩熱)です。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、肝火を鎮め、PMSを治していきます。

 下腹部痛、頭痛、肩凝り、のぼせが強いようなら、「血瘀(けつお)」証です。血流が鬱滞しやすい体質です。精神的ストレスや、冷え、体内の水液の停滞、生理機能の低下などにより、この証になります。疾患や体調不良が慢性化、長期化してこの証になる場合もあります。気・血・津液のうち、血の流れの停滞によるPMSです。血行を促進する漢方薬でPMSを治療します。

 むくみ、吐き気、下痢、めまい、頭痛などがみられるようなら、「痰飲(たんいん)」証です。痰飲とは、体内に停滞する異常な水液や物質のことです。排卵後に妊娠に備え、母体が気・血・津液のうちの津液をため込んだ結果、生じるPMSです。痰飲を取り除く漢方薬でPMSを改善します。

■症例1

「生理前に、頻繁にめまいに襲われます。乳房の張りが強く、ときに痛みます」

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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