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胃のつかえ感に効く漢方(1)
胃のつかえ感の考え方と漢方処方

2016/12/12

 胃のつかえ感とは、上腹部に何かが詰まった感じ、あるいは飲食物が通過しづらい感じがする状態です。一時的な場合もありますが、慢性的に繰り返し生じる場合は、漢方薬で体質から改善すると楽になります。

 胃のつかえ感のことを、中医学では「心下痞(しんかひ)」といいます。心下とは上腹部、みぞおちのあたりを指し、痞とはふさがって通りにくい状態のことです。心下痞と関係が深いのは、五臓六腑の脾胃です。脾胃は、消化吸収をつかさどる臓腑です。

 六腑の1つである胃は、飲食物を受け入れ(受納)、消化し(腐熟)、食べたものを人体に有用な形(清)に変化させてそれを脾に渡し、残りかす(濁)を下の小腸・大腸に降ろします(降濁)。五臓の1つである脾は、清を吸収して肺に持ち上げ(昇清)、気血を生成し、全身に輸送します(運化)。この脾胃の機能が失調すると、胃につかえ感が生じます。特に胃のつかえ感と関係が深いのは、胃の降濁機能の失調です。

 胃のつかえ感が生じる原因には、胃の機能(胃気)がもともと弱い体質である場合と、胃気が対応しきれないほどの負担が胃にかかった場合の2タイプがあります。前者は慢性的につかえ感が生じるタイプで、後者は一時的に胃がつかえるタイプです。

 胃のつかえ感によくみられる証には、以下のようなものがあります。

 1つ目は「胃熱(いねつ)」証です。暴飲暴食、特に刺激物や味の濃いもの、脂っこいものをたくさん食べたり、あるいはアルコールを多飲したりすると、それらが原因で熱邪が生じて胃熱となり、胃につかえ感が生じます。この証の人に対しては、胃熱を冷ます漢方薬で胃のつかえ感を除去します。

 精神的なストレスにより、胃がつかえる場合もよくあります。「肝気犯胃(かんきはんい)」証です。体の諸機能を調節(疏泄[そせつ])する臓腑である五臓の肝の機能(肝気)が滞り、その影響が胃に及んで胃気が停滞し、降濁機能が妨げられて胃がつかえます。ストレスや、緊張の持続、激しい感情の起伏などの影響で肝気が失調することにより、この証になります。肝気の鬱結を和らげつつ胃気を回復させる漢方薬を用い、胃のつかえ感を治します。

 以上は、一時的な胃のつかえ感によくみられる証です。胃気がさほど弱くなくとも、胃への刺激が強いために胃につかえ感が生じます。

 以下は、慢性的に胃のつかえを繰り返す場合によくみられる証です。

 慢性的な体調不良や疾患により胃気が弱っている体質なら、「胃気虚(いききょ)」証です。胃の降濁機能が低下するに従い、胃のつかえとともに、少ししか食べられない、吐き気などが生じます。消化能力や胃の蠕動運動が低下している状態です。胃の機能を立て直す漢方薬を用いて胃のつかえ感を改善します。

 消化吸収をつかさどる脾の機能(脾気)が弱い体質であるため、脾が持つ水湿を運輸する機能が弱くなって湿邪が生じ、それが胃気の降濁機能を妨げるために胃のつかえ感が引き起こされる場合もあります。「痰湿(たんしつ)」証です。痰湿というのは、体内にたまった過剰な水分や湿気のことです。この痰湿が胃気を阻害するため、胃のつかえ感が生じます。痰湿を取り除く漢方薬で体質を改善し、胃のつかえ感を治していきます。

 痰湿が熱を帯びてさらにつかえ感を不快にさせる「湿熱(しつねつ)」証もあります。湿熱は体内で過剰な湿邪と熱邪が結合したものです。痰湿の長期化、あるいは脂っこいもの、刺激物、味の濃いもの、生もの、アルコール類の日常的摂取や大量摂取、不潔なものの飲食などにより、この証になります。湿熱邪が胃気を阻害することにより、胃のつかえ感が慢性化します。漢方薬で湿熱を除去し、胃のつかえ感を改善していきます。

 胃部でごろごろと音が鳴ったり(グル音)、胃部を叩くとちゃぽちゃぽと音がしたり(振水音)するようなら、「胃内停水(いないていすい)」証です。脾の運輸機能が弱いために胃内の水分を吸収できず、胃内に水飲(過剰な水分)が停滞している状態です。胃中にいつまでも水分が停留するために飲食物が入っていかず、つかえます。漢方薬で胃内の水飲を除去し、胃のつかえ感を治します。

■症例1

「このところの仕事のストレスで、胃がつかえ、不快です。会社に行くのが憂鬱です」

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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