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バセドウ病に効く漢方(1)
バセドウ病の考え方と漢方処方

2016/10/04

 バセドウ病は、甲状腺の病気です。新陳代謝を盛んにするホルモン(甲状腺ホルモン)が過剰に作られる病態(甲状腺機能亢進症)の代表的なもので、橋本病と同様に女性に多い、自己免疫疾患の1つです。この病気を研究発表したドイツ人医師の名前にちなんで、バセドウ病と名付けられました。

 甲状腺は、甲状腺ホルモンを作る臓器(内分泌器官)で、頸の前の部分、喉仏のすぐ下の、唾を飲み込むときに動く辺りにあります。

 甲状腺ホルモンの量は、視床下部がコントロールしています。血液中の甲状腺ホルモン量が足りないと、下垂体から甲状腺刺激ホルモン(TSH)を分泌して甲状腺の活動を活発にし、甲状腺ホルモン量を増やします。逆に甲状腺ホルモン量が多過ぎると、TSH分泌量を減らして甲状腺の活動を抑え、甲状腺ホルモン量を減らします。これらの機能が失調して甲状腺の働きが活発になり過ぎた結果、甲状腺ホルモンが過剰に作られるようになったのが、バセドウ病です。

 バセドウ病になると、甲状腺が腫れるので(甲状腺腫)、頸が太くなったように見えます。そして新陳代謝が必要以上に活発になり、特に動いていなくても必要以上にエネルギーを消費する状態となります。つまり、じっとしているときでも体は走っているときと同じような状態ということです。そして甲状腺機能亢進症に特有の症状が表れます。

 まず、いつも走り続けているような状態なので、疲れやすくなります。また、そのために多くの酸素を必要とするので、動悸、息切れが生じます。当然、暑がりで、汗をかきやすくなります。手指のふるえも生じます。精神的にも、いらいらしやすく、興奮しやすく、眠りにくくなります。エネルギー消費が多いので、食欲があるのに痩せることもよくあります。高血圧、高血糖、痒み、月経期間の短縮、経血の減少などの症候も生じます。バセドウ病の特徴の1つとされる眼球突出は、5人に1人ほどの割合でみられます。

 西洋医学的には、甲状腺ホルモンの合成を抑える抗甲状腺薬(チアマゾール[商品名メルカゾール他]、プロピルチオウラシル[プロパジール、チウラジール他]など)で甲状腺ホルモン量をコントロールする方法や、放射性ヨウ素の入ったカプセルを内服し、甲状腺の細胞を減らすアイソトープ治療、甲状腺を外科的に切除する手術などの方法で治療に当たります。

 中医学では、バセドウ病は癭病(えいびょう)という病気に含まれます。精神的なストレスや、飲食の習慣の不摂生などの影響で、気・血(けつ)・津液(しんえき)の流れが滞り、頸の前に腫れものができる病気です。癭気、癭瘤とも呼ばれます。

 従って中医学では、滞っている気・血・津液の流れを潤滑にすることにより、バセドウ病の根本治療を進めます。

 バセドウ病の証には、以下のようなものがあります。

 胸苦しい、情緒変動で症状が出やすいなどの症状がみられるようなら、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。体の諸機能を調節(疏泄[そせつ])する臓腑である、五臓の肝の機能(肝気)がスムーズに働いていない体質です。ストレスや、緊張の持続、激しい感情の起伏などの影響で肝気が失調することにより、この証になります。肝気の流れの悪化、つまり気・血・津液のうち、気の流れの停滞によるバセドウ病です。甲状腺腫は軟らかめです。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、バセドウ病を治療します。

 汗がよく出る、のぼせ、暑がり、感情の起伏が激しい、興奮しやすい、不眠、眼球突出、手指のふるえ、口が苦いなどの症状が強いなら、肝鬱気滞が熱を帯びて生じる「肝火(かんか)」証です。伴う熱感は、落ち着かず、煩わしい不快な熱感(煩熱)です。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、肝火を鎮め、バセドウ病を治していきます。

 甲状腺の腫れが硬いようなら、「血瘀(けつお)」証です。血流が鬱滞しやすい体質です。精神的ストレスや、冷え、体内の水液の停滞、生理機能の低下などにより、この証になります。疾患や体調不良が慢性化、長期化してこの証になる場合もあります。気・血・津液のうち、血の流れの停滞によるバセドウ病です。血行を促進する漢方薬でバセドウ病を治療します。

 腫瘤(はれ、できもの、しこり)ができやすい体質であるために、この病気になる人もいます。「痰湿(たんしつ)」証です。「痰湿凝結」とも称します。痰湿というのは体内にたまった過剰な水分や湿気のことです。この痰湿が甲状腺腫を形成し、バセドウ病になります。胸苦しい、悪心、嘔吐、食欲不振、便秘などの症状を伴います。食べ過ぎ、食事の不摂生などによっても、この証になります。気・血・津液のうち、津液の流れの停滞によるバセドウ病です。肝鬱気滞と合わせてみられることも多く、その場合は、「気鬱痰阻(きうつたんそ)」証と呼びます。血瘀と合わさると、「痰結血瘀(たんけつけつお)」証です。痰湿を取り除く漢方薬で体質を改善し、バセドウ病を治していきます。

 病気が長期化して、動悸、不整脈、胸部のざわざわとした落ち着かない不安感(心煩)、それに伴う不眠、多汗、手指のふるえ、目の乾き、めまい、口渇、疲労倦怠感などの症候が強いなら、「心肝陰虚(しんかんいんきょ)」証です。五臓の心(しん)と肝(かん)の陰液が消耗している体質です。痰湿により生じる熱証が陰液を消耗し、この証になります。前述の症候は、全て心肝の陰液欠乏により生じたものです。漢方薬で心肝の陰液を補い、バセドウ病の治療を進めます。

■症例1

「バセドウ病です。体が熱く、汗をたくさんかきます」

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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