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生理痛に効く漢方(1)
生理痛の考え方と漢方処方

2016/07/08

 生理痛(月経痛)は、月経期あるいはその前後に下腹部や腰に痛みが生じる状態です。頭や胃が痛くなる場合もあります。

 漢方では、痛みは気や血(けつ)の流れや量と深い関係にあると捉えています。まず、流れについては、中医学に「不通則痛」という言葉があります。「通じざれば、すなわち痛む」と読みます。体内でのものの流れがスムーズでないと、痛みが生じるという意味です。気血が体内をさらさらと流れていれば、健康ですが、それらの流れが滞ると、痛みが生じます。

 量については、「不栄則痛」という原則もあります。「栄えざれば、すなわち痛む」と読みます。人体にとって必要な気血が不足しても、痛みが生じるという意味です。気血の流れが悪い場合だけでなく、量の不足によっても痛みが発生することを表現しています。

 月経は、人体を巡る経絡のうち、衝脈(しょうみゃく)、任脈(にんみゃく)という2つの経脈と深く関係する営みです。衝脈は生殖器を中心に広がる経脈で、五臓六腑の気血を調整し、さらに生殖能力をつかさどり、月経を調整する働きがあります。衝脈を通じて子宮から出る血液が、月経となります。任脈も生殖器を中心に広がる経脈で、子宮や妊娠と深い関係にあります。これら衝任脈の血が不足したり巡りが悪くなったりすると、生理痛が生じます。

 生理痛の証には、以下のようなものがあります。

 まずは「不通則痛」タイプの3つの証です。生理痛とともに月経前症候群(PMS)も強いようなら、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証が考えられます。肝は五臓の一つで、体の諸機能を調節し、情緒を安定させるのが、主な働きです(疏泄[そせつ])。また、「肝は血を蔵す」といい、血を貯蔵し循環させる臓腑でもあります。この肝の機能(肝気)がスムーズに働いていない体質が肝鬱気滞です。ストレス、緊張、情緒変動などにより、肝気の流れが悪化し、生理痛が生じます。生理前から生理前半にかけて、下腹部が脹るように痛みます。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、生理痛を治します。

 血行が悪いために生理痛が生じているようなら、「血瘀(けつお)」証です。血流が鬱滞しやすい体質です。精神的ストレスや、冷え、体内の過剰な水液、生理機能の低下などによりこの証になります。疾患や体調不良が慢性化して長引いて血流が悪くなった結果、この証になる場合もあります。血の流れが悪いため、生理痛となります。生理が始まるとともに下腹部痛が始まり、経血量が減ってくると痛みも軽くなります。血行を促進する漢方薬で生理痛を治療します。

 気と血の両方の流れが停滞している場合も少なくありません。「気滞血瘀(きたいけつお)」証です。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、さらに血行を促進して鬱血を取り除き、生理痛を治療します。

 次は「不栄則痛」タイプの証です。気血の量が不足しているために生理中や生理後半に下腹部がしくしく痛むようなら、「気血両虚(きけつりょうきょ)」証です。「気虚」と「血虚」が同時に生じている状態を指します。気虚は生命エネルギーを意味する「気」が不足している体質で、過労、生活の不摂生、慢性疾患などにより気を消耗するとこの状態になります。血虚は人体に必要な血液や栄養を意味する「血」が不足している体質で、偏食など無神経な食生活、胃腸機能の低下、出血、慢性疾患などによりこの状態になります。気血を補う漢方薬を使い、生理痛の根本治療を進めます。

 以上が気血の流れの停滞や量の不足が直接の原因となって生じる生理痛の証です。それ以外には、以下の証がよくみられます。

 お腹を温めると痛みが軽減するようなら、「寒凝(かんぎょう)」証かもしれません。冷え症である場合はもちろん、冷たい飲食物の摂取、ファッション重視の薄着、寒冷な環境での仕事や生活などにより、寒冷の性質を持つ病邪である寒邪(かんじゃ)が体内に侵入すると、この証になります。寒邪が衝任脈に侵入して経血を凝滞させるため、生理痛が生じます。生理前や生理中に下腹部が痛みます。体内を温めて血行を促進する漢方薬で、生理痛を緩和させていきます。

 生理前や生理中に下腹部に灼熱性の痛みがあるようなら、「湿熱(しつねつ)」証です。湿熱は体内で過剰な湿邪と熱邪が結合したものです。清潔とはいえない生活環境や、脂っこいもの、刺激物、味の濃いもの、生もの、アルコール類の日常的摂取や大量摂取、不潔なものの飲食などにより、この証になります。湿熱邪が衝任脈に停滞し、生理痛が生じます。漢方薬で湿熱を除去し、生理痛を改善していきます。

 生理が終わってから下腹部や腰がしくしく痛む場合もあります。「肝腎陰虚(かんじんいんきょ)」証です。肝は、疏泄をつかさどるとともに、「血を蔵す」機能もあり、血を貯蔵して循環させます。腎は、気や血の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖、ならびに水液や骨をつかさどります。精を基に血を生み出す臓腑であるため、「腎は血を生ず」といい、血に関して腎と肝とは深い関係にあります。過労、不摂生、大病や慢性的な体調不良、加齢などにより、肝腎の陰液が減ると、この証になります。そしてさらに月経によって肝腎の陰液が失われることにより、生理痛が生じます。この証には、肝腎の陰液を補う漢方薬を使います。

■症例1

「生理痛です。生理直前から下腹部が痛くなります。温めると楽になります」

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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