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喘息に効く漢方(1)
喘息の考え方と漢方処方

2016/05/19

 喘息(気管支喘息)は、炎症などにより気管支が狭くなり、呼吸困難、咳、痰、喘鳴などの症状が生じる疾患です。炎症を繰り返すことによって気道が過敏になっており、ちょっとした刺激で気管支が狭まります。多くはアレルギーによって起こりますが、過労、ストレス、運動、気圧の変化、冷えなどによっても引き起こされます。

 喘息の治療薬には、喘息発作時に症状を抑える対症療法薬と、発作が起きていないときに服用する薬の2種類があります。

 漢方では、発作が起きていないときにも根本的に「喘息体質」を改善し、喘息発作が起きないようにしていく治療を重視しています。辛い発作を止めることも大切ですが、発作を繰り返さないように根本的な治療を進めていきます。

 喘息のことを漢方では哮喘(こうぜん)と呼んでいます。発作性の喘鳴や呼吸困難を伴う呼吸疾患が哮証で、喘鳴を伴わない呼吸困難が喘証ですが、同時に生じることが多いため、まとめて哮喘と呼びます。

 喘息の根本原因は、胸中の「痰」の存在です。漢方で痰というと、気管から出る粘液性の分泌物のことだけを指すのではなく、正常ではない病的な体液全体を指します。痰が排除されれば根本的な「喘息体質」の改善が進み、ダニ、ハウスダスト、たばこの煙、台風の接近などの刺激が来ても、喘息の発作が生じることはなくなります。

 痰は、本来正常な人体に必要不可欠な体液(津液[しんえき])が停滞することにより生じます。痰の発生には、五臓の肺、脾、腎の機能失調が深く関与しているため、これら肺、脾、腎の機能を正常化することが、「喘息体質」治療の要となります。

 体内の水液調節について、漢方では三焦(さんしょう)という概念でとらえています。三焦は五臓六腑の1つで、全身に広がって全ての臓腑を包み込む膜状の組織です。気や津液は、この三焦を通って全身を流れます。

 飲食物から得られる水分は、まず五臓の脾で津液として吸収されます。そして五臓の肺に運ばれて全身に散布され、生命活動に使われます。その後、五臓の腎まで下降し、排泄されます。有用な津液は、再び肺に運ばれます(蒸騰気化)。五臓の肝(かん)は、この水分の流れ全体の調節をします。これら体液の流れは、全て三焦を介して行われており、これを三焦気化(さんしょうきか)といいます。

 痰は、この三焦気化がスムーズに機能しなくなったときに、津液の流れが滞り、発生します。従って、痰の発生には、五臓の脾、肺、腎が深く関係しています。漢方薬でこれらの臓腑の機能を改善すれば、痰が消失し、「喘息体質」が改善され、喘息が根本的に治ります。

 津液の生成と関係が深い脾の機能(脾気)が低下して水湿が停滞し、痰が生じているなら、「脾気虚(ひききょ)」証です。まず飲食物は六腑の1つである胃に受け入れられ(受納)、消化され(腐熟)、さらに人体に有用な形(清)に変化し、脾に渡されます。脾は、清を吸収して肺に持ち上げ(昇清)、気・血(けつ)・津液を生成し、全身に輸送します(運化)。この脾気が弱いのが脾気虚です。水湿が停滞して痰を生じ(脾虚生痰)、その痰が肺に溜まり、喘息体質になります。子どもの喘息に、よくみられる証です。漢方薬で脾気を強めて運化を正常に行わせ、痰を除去し、喘息の治療を進めます。

 脾気虚が進んで脾の血などの物質面(脾陰)も不足すると、「脾気陰両虚(ひきいんりょうきょ)」証になります。脾気虚証に加えて、脾の陰液も不足している体質です。脾気虚が長期化した場合にみられやすい証です。陰液が少ないので、口や喉の渇き、唇の乾燥、硬い便、手足のほてり、などの燥証がみられます。これも小児喘息にもみられやすい証です。脾気と陰液を補う漢方薬で、喘息を治していきます。

 肺の機能(肺気)が不足している喘息体質もよくみられます。「肺気虚(はいききょ)」証です。肺は、呼吸により空気中から酸素などの有効成分(清気[せいき])を吸収し、体内から二酸化炭素などの不要な老廃物(濁気[だくき])を排出(ガス交換)して、気の生成に深く関与します。また気と津液を全身の隅々に散布し(宣発[せんぱつ])、さらに呼吸を調えて津液を次第に下方に推し進めます(粛降[しゅくこう])。この宣発・粛降による体液調節機能が、過労や慢性的な体調不良の影響で衰えると、痰が肺に溜まり、喘息体質になります。かぜを引きやすく、呼吸が浅くて息切れしやすく、透明の痰が出ます。肺気を補う漢方薬で津液の流れを正常化させ、喘息を治します。

 腎の機能低下による喘息体質も少なくありません。「腎虚(じんきょ)」証です。腎は、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である「精(せい)」を貯蔵し、人の成長・発育・生殖をつかさどる臓腑です。体液の代謝全般の調節も担います。骨や髄の形成も行い、呼吸、特に吸気をつかさどる機能もあります。この腎が、生活の不摂生、過労、慢性病による体力低下、加齢などにより弱ると、この証になります。そして体液代謝の調節機能が衰え、蒸騰気化ができなくなると、痰が溜まり、喘息体質になります。漢方薬で腎の機能を補い、蒸騰気化のサイクルを正常化し、喘息を改善します。

 肺と腎の両方の機能が乱れて喘息体質になる場合もあります。慢性的な体調不良や加齢により肺と腎の陰液が消耗し、虚熱が生じて津液を濃縮して痰を生む「肺腎陰虚(はいじんいんきょ)」証です。黄色くて粘稠な痰が出ます。口や喉、皮膚も乾燥します。漢方薬で肺と腎の陰液を補い、肺と腎の機能を正常化させて喘息を治します。

 脾と腎の機能が弱って喘息体質になっているケースもあります。先天的な虚弱体質や、過労、加齢、慢性疾患などで脾と腎の陽気が衰え、津液を気化できなくなる「脾腎陽虚(ひじんようきょ)」証です。津液が停滞し、希薄な水液が三焦に溜まり、肺からあふれ、白くて薄い痰が出ます。身体が冷え、むくみや頻尿も生じます。脾と腎を温めて機能を回復させる漢方薬で喘息を治療します。

 痰が熱を帯びて肺に停滞し、喘息体質となることもあります。「痰熱(たんねつ)」証です。精神的ストレスや暴飲暴食などで生じた熱が痰と結びつき、この証になります。痰が黄色く粘稠で、なかなか切れないのが特徴です。尿も濃くなります。痰熱を除去する漢方薬で喘息を改善していきます。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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