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自律神経失調症に効く漢方(1)
自律神経失調症の考え方と漢方処方

2016/04/19

 自律神経失調症は、自律神経のバランスが崩れて様々な症状が出る病気です。

 自律神経は、心臓の拍動、肺での呼吸、胃腸での消化吸収、皮膚での発汗など、生きるために必要な様々な機能を遂行し、調整する機能の1つです。普段は交感神経と副交感神経とがシーソーのようにバランスよく働くことによって、それらの機能がうまく調整され、適切に遂行され、私たちは特に心臓や肺や胃腸の存在を意識することなく、穏やかに日常生活を送っています。

 ところが、この自律神経系が、ストレスや緊張、疲労、ホルモンバランスの変化などの影響を受けて乱れると、上記の機能が普段通りに穏やかに働かなくなり、様々な体調不良が生じます。これが自律神経失調症です。

 見られやすい症状は、肩凝り、頭痛、めまい、吐き気、腹痛、下痢、疲労倦怠感、不眠、動悸、いらいら、冷え、のぼせ、発汗など、多岐にわたります。これらの症状は、実際にそれぞれの内臓や組織が悪くなっているわけではないので、病院の検査で異常が見付からないことが多いようです。

 西洋医学では、抗不安薬、抗うつ薬、自律神経調整薬、睡眠導入剤などで症状を和らげます。

 漢方では、自律神経系と関係が深い五臓の肝(かん)や心(しん)の機能を漢方薬で整えることにより、根本的な治療を進めます。

 肝は、身体の諸機能を調節し、情緒を安定させるのが、主な働きです(疏泄[そせつ])。また、「肝は血(けつ)を蔵す」といい、血を貯蔵し循環させる臓腑でもあります。さらに「筋(きん)をつかさどる」機能もあり、筋肉の収縮や弛緩といった運動の制御もします。

 心の機能は、心臓を含めた血液循環系(血脈)をつかさどることと、人間の意識や判断、思惟などの人間らしい高次の精神活動(神志[しんし])をつかさどることです。

 自律神経の失調は、身体が発する悲鳴のようなものです。ストレスや疲労の蓄積などに身体が耐えきれず、その歪みが諸症状となって表れます。赤信号になる一歩手前の黄信号のようなものですので、この機会に漢方薬で心身のバランスなど、体調を整えておくとよいでしょう。

 ストレスの影響で自律神経系が失調しているようなら、まず「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証が考えられます。五臓の肝の機能(肝気)がスムーズに働いていない体質です。ストレスの蓄積、緊張の持続、人間関係によるプレッシャーなどにより、肝気の流れが悪化し、その影響が自律神経に及ぶと、自律神経失調症になります。情緒不安定、憂鬱感、いらいら、ため息、排便の不調、生理不順などが生じます。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、自律神経失調症を治していきます。

 肝鬱気滞の状態が長く続いて熱を帯びると、「肝火(かんか)」証になります。強いストレスや緊張、激しい感情の起伏などの影響により、この証になることもあります。激しいいらいら、怒りっぽい、寝付きにくい、のぼせ、ほてり、顔面紅潮などの症候がみられます。また、五臓の心の機能(心気)が過度の刺激を受けて亢進すると、「心火(しんか)」証になります。心火証になると、焦燥感、落ち着かない、不安、強い不眠、動悸、胸苦しい、などの症状が表れます。ともに自律神経失調症にみられることの多い証ですが、特に多いのは、この2つが同時にみられる状態です。これを「心肝火旺(しんかんかおう)」証といいます。漢方薬で肝火と心火を鎮め、自律神経失調症を治していきます。

 肝気ではなく、肝血(肝において必要な血液や栄養)の失調がベースとなり、自律神経失調症となる場合もあります。肝血が足りない体質を「肝血虚(かんけっきょ)」証といい、これだけでも自律神経失調症となる場合もありますが、さらに肝血虚が進んで肝の機能(肝陽)を抑制することができなくなり、肝陽が上昇し(「肝陽上亢(かんようじょうこう)」証)、この状態が強まり、あるいは長引いて「肝陽化風(かんようかふう)」証となる場合も少なくありません。頭痛、のぼせ、怒りっぽい(以上は肝陽上亢でもみられる症状)、さらに、めまい、ふらつき、ふるえ、引きつりなどの症状が表れます。この証の人に対しては、肝陽を落ち着かせて内風を和らげる漢方薬で治療を進めます。

 肝ではなく、心の機能(心気)が低下して自律神経失調症となる場合もよくあります。「心気虚(しんききょ)」証です。考え過ぎや、心労の積み重ねにより、心気の不足が生じ、動悸、息切れ、めまい、発汗、不安感、疲労倦怠感、胸苦しい、などの症状が表れます。ベースとなる気力や体力が弱いので、普通の人なら気にならないことでも気になってしまうところがあります。この証の場合は、心気を漢方薬で補うことで心の機能を強化し、自律神経失調症を治療します。

 心気を養う心血が不足して自律神経失調症となる場合もあります。心血虚(しんけっきょ)」証です。過度の心労や、思い悩み過ぎ、過労が続くことにより心に負担がかかり、心血が消耗してこの証になります。心血の不足により神志が不安定になり、自律神経失調症になります。どきどきしやすく、驚きやすいようなところがあります。健忘や不眠もみられます。漢方薬で心血を潤して自律神経失調症を改善していきます。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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