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男性不妊症に効く漢方(1)
男性不妊症の考え方と漢方処方

2016/03/04

 子どもができない原因のおよそ半分は男性側にあるといわれています。十分な量の精子が出ない、精子の運動率がよくない、奇形の精子が多い、などが主な理由です。精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)など原因が明らかな場合もありますが、多くの場合、原因不明です。

 妊娠の成立に向けて、卵子の状態や女性の体調が大きく関係してくるのは当然ですが、同時に「丈夫で元気な精子」も必要不可欠な要因だということです。

 男性不妊症には、以下のようなものがあります。

 乏精子症 :精子の数が著しく少ない
 無精子症 :精液中に精子が見当たらない
 精子無力症 :精子の運動率が低い
 奇形精子症 :精子の奇形率が高い(正常な形態の精子が少ない)

 漢方では、五臓の腎(じん)を男性不妊症に最も関連が深い臓腑と捉えています。腎の機能(腎気)は、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖、ならびに水液や骨をつかさどることです。従って精子の数や運動率、形態などは、まさに腎の状態に大きく左右されることになります。腎の状態がよければ、精子の状態もよくなります。

 腎気は、年齢とともに弱まります。精子も、年齢とともに老化して染色体異常が増えるという報告もあります。染色体の異常があると、たとえ受精卵ができて妊娠しても、その後成長し続けることができずに成長が止まり、流産となります(不育症)。腎気を高めておくことは、これらの予防にも有効です。

 精子の運動率がよくないなど、機能面で問題があり、同時に冷えが強いようなら、「腎陽虚(じんようきょ)」証(しょう)です。腎の陽気が不足している体質です。陽気とは気のことで、人体の構成成分を陰陽に分けて考える場合、陰液と対比させて陽気と呼びます。加齢や、生活の不摂生、過労、慢性疾患による体力低下などによって人体の機能が衰え、冷えが生じてこの証になります。腎陽が虚弱になると、性機能やホルモン内分泌機能が低下し、精子の機能も衰え、男性不妊症になります。腎陽を補う漢方薬で男性不妊症に対処します。

 精子の数が少ない、あるいは見当たらないような場合は、「腎陰虚(じんいんきょ)」証かもしれません。腎の陽気ではなく、腎の陰液が不足している体質です。陰液とは、人体の構成成分のうち、血(けつ)・津液(しんえき)・精を指します。過労、不規則な生活、大病や慢性的な体調不良、性生活の不摂生、加齢などにより精が減り、精子が減り、男性不妊症になります。陰液の不足により相対的に陽気が亢進するため、のぼせ、手足の火照りなどの熱証が生じます。腎の精気など腎陰を補う漢方薬で男性不妊症を治します。

 ストレスも男性不妊と関係があります。ストレスの影響で精子の元気がないようなら、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。身体の諸機能を調節(疏泄[そせつ])する臓腑である五臓の肝の機能(肝気)がスムーズに働いていない体質です。ストレスや緊張が持続することにより、この証になることがよくあります。肝気の流れの悪化の影響がホルモンバランスの失調に及び、男性不妊となります。仕事の激務による疲労やストレスの蓄積、深夜残業による不規則な生活、家族や周囲からのプレッシャーなどが継続あるいは繰り返すことにより、この証になってしまう例をよくみます。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、男性不妊症を治していきます。

 精索静脈瘤など、血液の流れが悪いために精子の状態がよくないようなら、「血瘀(けつお)」証です。血流が鬱滞しやすい体質です。精神的ストレスや、冷え、体内の過剰な水液、生理機能の低下などにより、この証になります。疾患や体調不良が慢性化して長引いて血流が悪くなり、この証になる場合もあります。血流の悪化により腫れが生じて精索が圧迫され、睾丸の温度が上昇したり、精巣に十分な酸素や栄養が供給されなくなったりすると、精子を造る機能(造精機能)が低下し、男性不妊症になります。血行を促進する漢方薬で男性不妊症を治療します。

 食事の不摂生が原因で精子の元気がなくなるケースも少なくありません。「痰湿(たんしつ)」証です。痰湿というのは体内に溜まった過剰な水分や湿気のことです。食べ過ぎ、食事の不摂生などにより、この証になります。痰湿が精巣の機能を阻害するため、男性不妊症になります。痰湿を取り除く漢方薬で体質を改善し、男性不妊を治していきます。

 痰湿が熱を帯びてさらに造精機能を低下させる「湿熱(しつねつ)」証もあります。湿熱は体内で過剰な湿邪と熱邪が結合したものです。痰湿の長期化、あるいは、脂っこいもの、刺激物、味の濃いもの、生もの、アルコール類の日常的摂取や大量摂取、不潔なものの飲食などにより、この証になります。湿熱邪が精巣の機能を阻害することにより、男性不妊となります。漢方薬で湿熱を除去し、男性不妊症を改善していきます。

■症例1

「男性不妊です。検査の結果、精索静脈瘤と診断されました。手術を勧められていますが、いまの時点では少し抵抗があります」

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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