DI Onlineのロゴ画像

橋本病に効く漢方(1)
橋本病の考え方と漢方処方

2016/01/27

 橋本病は、甲状腺の病気です。別名を慢性甲状腺炎といいます。自己免疫疾患の1つで、甲状腺に慢性的な炎症が起こっている状態です。最初に論文発表した日本人の名前から、この名が付きました。

 甲状腺は、新陳代謝を盛んにするホルモン(甲状腺ホルモン)を作る臓器(内分泌器官)です。首の前の部分、喉のあたりにあり、気道を抱き込むようにくっついています。私たちの身体は、新陳代謝により古い細胞が新しい細胞に入れ替わることにより、健康や若々しさを保っています。皮膚も内臓も、骨も子宮も同じです。この新陳代謝において重要な役割を果たしているのが甲状腺ホルモンです。甲状腺ホルモンは、成長や発育、日常活動に欠かせないホルモンです。

 橋本病になり、甲状腺に慢性的な炎症があっても、甲状腺ホルモンの合成には異常がない場合もあります。しかし、炎症があるために甲状腺ホルモンが十分分泌されなくなっていることがあります(甲状腺機能低下症)。この状態になって新陳代謝が衰えると、心身の活力が低下し、甲状腺機能低下症特有の症状が表れます。

 まず、甲状腺が腫れて大きくなっているので、首が太く見えることがあります。また、甲状腺ホルモンの量が少なくなると、活力が低下し、元気ややる気がなくなり、眠気が強くなり、うつっぽくなります。むくみが生じ、手指がこわばり、肌が乾燥します。胃腸機能が低下するので、便秘がちになります。熱を作る機能が低下するため、体温が下がり、寒がりになり、汗をかきにくくなります。心臓の機能も低下し、脈拍が遅くなります。食欲が減退して食べる量が減りますが、消費カロリーも減るので太ります。コレステロールの代謝機能も下がるため、血中コレステロール値が高くなる場合もあります。不妊や流産の原因となることもあります。

 この病気は男性よりも女性に多く、成人女性の20人に1人にみられるとの報告もあります。

 西洋医学的には、レボチロキシンナトリウム(商品名チラーヂンS他)などの甲状腺ホルモン製剤を使い、甲状腺ホルモンを補充することにより治療に当たります。炎症の改善など根本的な治療ではありませんが、体内の甲状腺ホルモンが増えるために活気が戻り、諸症状が緩和されていきます。

 漢方では、甲状腺の機能や免疫系に働きかけることにより、甲状腺機能の低下を改善していきます。表面的には活力が衰える「気虚(ききょ)」証ですが、気虚の奥にある証を治療していくのが漢方治療のポイントです。

 甲状腺機能の低下そのものは、「腎陽虚(じんようきょ)」証(しょう)です。腎は五臓の1つで、その機能(腎気)は、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖、ならびに水液や骨をつかさどることです。その腎の陽気が不足している体質が、この証です。陽気とは気のことで、人体の構成成分を陰陽に分けて考える場合、陰液と対比させて陽気と呼びます。加齢や、生活の不摂生、過労、慢性疾患による体力低下などによって人体の機能が衰え、冷えが生じてこの証になります。腎陽が虚弱になると、ホルモン内分泌機能が低下し、橋本病になります。腎陽を補う漢方薬で橋本病に対処します。

 甲状腺の機能低下の原因として、気の流れの停滞もよくみられます。気の流れはさらさらしているのが理想的ですが、ストレスや環境変化により、停滞しやすくなります。ストレスなどの影響で甲状腺機能が低下しているようなら、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。身体の諸機能を調節(疏泄[そせつ])する臓腑である五臓の肝の機能(肝気)がスムーズに働いていない体質です。ストレスや緊張が持続することにより、この証になります。肝気の流れの悪化の影響がホルモンバランスの失調に及び、橋本病となります。仕事の激務による疲労やストレスの蓄積、深夜残業による不規則な生活、家族や周囲との人間関係によるプレッシャーなどが継続、あるいは繰り返すことによっても、この証になります。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、橋本病を治していきます。

 血流の悪化が関係している場合も少なくありません。多くの場合、上記の気滞が影響しており、気と血(けつ)の両方の流れが停滞している「気滞血瘀(きたいけつお)」証です。肝鬱気滞の影響で血流も鬱滞して「血瘀」証にもなり、この証になります。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、さらに血行を促進し、鬱血を取り除き、橋本病を治療します。

 腫瘤(はれ、できもの、しこり)ができやすい体質であるために、この病気になる人もいます。「痰湿(たんしつ)」証です。痰湿というのは体内に溜まった過剰な水分や湿気のことです。この痰湿が慢性甲状腺炎を形成し、橋本病になります。食べ過ぎ、食事の不摂生などによっても、この証になります。痰湿を取り除く漢方薬で体質を改善し、橋本病を治していきます。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

この記事を読んでいる人におすすめ