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貧血に効く漢方(1)
貧血の考え方と漢方処方

2015/12/10

 貧血とは、血液中の赤血球や、そこに含まれるヘモグロビン(血色素)が少なくなった状態のことです。最もよくみられるのは、ヘモグロビンに含まれる鉄が不足して起こる鉄欠乏性貧血です。

 ヘモグロビンの役割は、肺で酸素を受け取り、身体の隅々にまで酸素を運搬し、要らなくなった二酸化炭素を持ち帰って肺から放出することです。従って、ヘモグロビンが少ないと全身に運ばれる酸素の量が減って酸欠状態となり、疲れやすい、めまい、立ちくらみ、頭重感、頭痛、動悸、息切れ、顔や唇の色が悪い、肩凝りなどの症状が生じます。

 西洋医学では、鉄剤が処方されます。

 漢方では、血液は血(けつ)という概念に含まれます。血は体内を流れる基本的な物質の1つで、血液だけでなく、血液が運ぶ栄養という意味もあります。血液循環そのものを意味する場合もあります。血流により全身の組織に栄養を与えて滋養するのが、血の機能です。

 血は、主に飲食物から作られます。まず飲食物は六腑の1つである胃に受け入れられ(受納)、消化され(腐熟)、さらに人体に有用な形(清)に変化し、脾に渡されます。五臓の1つである脾は、清を吸収して肺に持ち上げ(昇清)、気血を生成し、全身に輸送します(運化)。気血が生成される際には、肺が吸収した空気(清気)が清と結合する必要もあります。このように、血は飲食物を基に、脾と胃の作用により作られます。特に消化機能がメインの胃よりも、吸収と血の生成をつかさどる脾が、貧血の治療には重要な役割を果たします。

 もう1つ、五臓の腎が蔵する精(せい)が血に変化することによっても、血は作られます。精は、生きるために必要なエネルギー(気)や栄養(血)の基本物質です。人の成長・発育・生殖をつかさどり、気血を生成する機能があります。

 従って漢方では、貧血に対しては、血を補うだけでなく、脾や腎の機能を高めることにより、人が自分で自分の血を作り出す力、つまり造血作用を高めることを重視して治療に当たります。ヘモグロビンの材料の1つである鉄を薬剤として補給して、貧血の数値を改善していく西洋医学とは、また別のアプローチといえます。

 漢方の貧血治療で最も基本的なのは、脾の機能を高めること、すなわち「脾気虚(ひききょ)」証(しょう)の治療です。この証は脾の機能(脾気)が弱い体質であるため、飲食物の吸収機能や血を生成する力が弱く、その結果、貧血になります。漢方薬で脾気を強めて運化を正常に行わせ、貧血の治療を進めます。

 脾気虚の程度が進むと、身体を温める力が衰え、「脾陽虚(ひようきょ)」証になります。貧血プラス冷え症の人によくみられる体質です。お腹や手足が冷える、お腹がしくしく痛む、などの寒証がみられます。消化吸収機能を調えて体内のエネルギーを高め、身体を芯から温めてくれる漢方薬が有効です。

 貧血の基本にみられる証は、「血虚(けっきょ)」です。人体に必要な血液や栄養が不足している体質です。まさに貧血そのものです。偏食など無神経な食生活、胃腸機能の低下、出血、慢性疾患などにより、この証になります。漢方薬で血を補い、貧血を改善させていきます。ただし血が補われても造血作用が高まるわけではありませんので、貧血の根本治療には、例えば脾気虚の治療などを同時に進める必要があります。

 そこで、脾気虚と血虚を同時に改善していくこと、つまり「気血両虚(きけつりょうきょ)」証の治療が、貧血の漢方治療の有効な手段ということになります。気と血の両方を補う漢方薬を使い、血を補いつつ造血機能を高め、貧血の根本治療を進めます。

 貧血がなかなか改善しない、あるいは繰り返し起きてしまうようなら、「腎陽虚(じんようきょ)」証かもしれません。腎の陽気(腎陽)が不足している体質です。陽気とは気のことで、人体の構成成分を陰陽に分けて考える場合、陰液と対比させて陽気と呼びます。腎陽には、精を貯蔵し、人の成長・発育・生殖をつかさどる機能のほか、水液や骨をつかさどる機能も含まれます。生活の不摂生、過労、加齢、慢性疾患による体力低下などによって人体の機能が衰え、冷えが生じてこの証になります。腎陽が虚弱になると、骨髄の造血作用が衰え、貧血になります。腎陽を補う漢方薬で貧血に対処します。

 同じように腎が衰弱する場合でも、冷えとは逆に、のぼせや手足のほてりを伴う場合もあります。「腎陰虚(じんいんきょ)」証です。腎の陽気ではなく、腎の陰液が不足している体質です。陰液とは、人体の構成成分のうち、血・津液・精を指します。過労、不規則な生活、大病や慢性的な体調不良、性生活の不摂生、加齢などにより精、つまり気血の基本物質が減り、貧血になります。陰液の不足により相対的に陽気が亢進するため、のぼせ、手足のほてりなどの熱証が生じます。腎の精気など腎陰を補う漢方薬で貧血を治療します。

■症例1

「疲れやすく、めまいや立ちくらみが生じるようになったので病院に行ったところ、貧血と診断されました」

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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