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不育症に効く漢方(1)
不育症の考え方と漢方処方

2015/10/27

 不育症は、妊娠はするが流産や死産を繰り返し、出産に至らない疾患です。漢方では、五臓の腎(じん)や血(けつ)の状態を調えることにより、不育症の改善を進めます。

 不育症とは、妊娠はするけれども継続できず、流産や死産を繰り返す状態です。近年の晩婚化や、女性の出産年齢の高齢化などの社会的な背景に伴い、不育症に悩む人は増えています。

 流産や死産の原因には、受精卵や胎児の染色体異常や、ホルモン異常、血液の固まりやすさ、子宮の形の異常、ストレスなどがあります。染色体異常の場合、染色体異常を持つ受精卵の多くは、受精後に成長し続けることができずに成長が止まり、流産となります。検査をしても原因が分からない不育症が全体の6割以上を占めるといわれています。

 漢方では、五臓の腎(じん)を、不育症に最も関連が深い臓腑と捉えています。腎の機能(腎気)は、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖、ならびに水液や骨をつかさどることです。従って、染色体異常を含む受精卵や胚の健康状態や、黄体ホルモンなど性ホルモンの量などは、腎の状態に大きく左右されます。

 女性の年齢が高くなるにつれ、受精卵の染色体異常が生じる率は上昇します。黄体ホルモン(プロゲステロン)も年齢とともに減少し、妊娠の成立や継続に足りなくなる場合もあります(黄体機能不全)。精子も年齢とともに老化して染色体異常が増えるという報告もあります。腎気を高めておくことは、これらの予防に有効です。

 血(けつ)の流れ方や量も、不育症と関係があります。血とは、人体に必要な血液や栄養のことです。血流(血液の固まりやすさ)と関係が深く、血の流れの停滞が流産の原因となることがあります。また血の量が少ないと子宮内膜が十分厚くならず、流産することもあります。

 不育症の原因に染色体異常や黄体機能不全が関係しており、冷えが強いようなら、「腎陽虚(じんようきょ)」証(しょう)です。腎の陽気が不足している体質です。陽気とは気のことで、人体の構成成分を陰陽に分けて考える場合、陰液と対比させて陽気と呼びます。加齢だけでなく、生活の不摂生、過労、慢性疾患による体力低下などによっても人体の機能が衰え、冷えが生じてこの証になります。腎陽が虚弱になると、性機能やホルモン内分泌機能が衰え、不育症になります。腎陽を補う漢方薬で不育症に対処します。

 同じように腎が衰弱する場合でも、冷えとは逆に、のぼせや手足のほてりを伴う場合もあります。「腎陰虚(じんいんきょ)」証です。腎の陽気ではなく、腎の陰液が不足している体質です。陰液とは、人体の構成成分のうち、血・津液・精を指します。過労、不規則な生活、大病や慢性的な体調不良、性生活の不摂生、加齢などにより精が減り、不育症になります。陰液の不足により相対的に陽気が亢進するため、のぼせ、手足のほてりなどが生じます。腎の精気など腎陰を補う漢方薬で不育症を治します。

 血液が固まりやすいようなら、「血瘀(けつお)」証です。血流が鬱滞しやすい体質です。精神的ストレスや、冷え、体内の過剰な水液、生理機能の低下などにより、この証になります。疾患が慢性化して長引いて血流が悪くなり、この証になる場合もあります。血液が固まりやすいと血流が悪化したり血栓ができたりし、胎児に十分な栄養が届かなくなり、流産になります。血行を促進する漢方薬で不育症を治療します。

 子宮内膜が薄いようなら、「血虚(けっきょ)」証です。人体に必要な血液や栄養が不足している体質です。偏食など無神経な食生活、胃腸機能の低下、出血、慢性疾患などにより、この証になります。血が不足しているため、子宮内膜が十分厚くならず、流産します。漢方薬で血を補い、流産しにくくしていきます。

 ストレスも妊娠や流産と関係があります。ストレスの影響で流産しているようなら、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。身体の諸機能を調節(疏泄:そせつ)する臓腑である五臓の肝の機能(肝気)の流れが滞っている体質です。ストレスや緊張が持続すると、この証になります。肝気の流れの悪化の影響がホルモンバランスの失調に及び、流産します。仕事の激務による疲労蓄積や深夜残業による不規則な生活、家族の不理解や家族からのプレッシャーが継続あるいは繰り返して流産してしまう例をよくみます。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、不育症を治していきます。

 不育症の検査を行っても明らかな原因が見つからない場合は、検査上は正常範囲内でも体質的には既に上記のような証になっていることが多々あります。そのような場合こそ漢方薬で「妊娠しやすい体質」や「流産しにくい体質」に向けて体質改善を進めることにより、いい結果に結び付くことも少なくありません。

■症例1

「これまで2回流産しています。胎嚢(たいのう)確認後、心拍が確認できず、ともに稽留流産(けいりゅうりゅうざん)でした」

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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