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不正性器出血に効く漢方(1)
不正性器出血の考え方と漢方処方

2015/05/13
野村和博

 不正性器出血のことを、中医学で「崩漏(ほうろう)」といいます。特に出血量が多い場合を「崩中」や「経崩」、少量でだらだらと続く場合を「漏下」や「経漏」と称しますが、両者は交互に出現することが多いので、合わせて崩漏と呼んでいます。

 不正性器出血(崩漏)と関係が深いのは、経絡(けいらく)の一種である、衝脈(しょうみゃく)と任脈(にんみゃく)です。経絡とは、全身にくまなく分布している通路であり、人体の基本的構成成分である気・血(けつ)・津液(しんえき)がその経絡を運行して、人体を一つの有機体として結び付け、機能させています。

 経絡のうち、その主幹部分を経脈(けいみゃく)といいます。経脈は、人体の深部を巡行します。経脈のうち特に女性の生理と関係が深いのが、衝脈と任脈です。衝脈と任脈を合わせて衝任と呼ぶこともあります。

 衝脈は生殖器を中心に広がる経脈で、五臓六腑の気血を調整し、さらに生殖能力をつかさどり、月経を調整する働きがあります。「五臓六腑の海」、あるいは「血海」とも呼ばれます。動脈系を中心に分布し、卵巣機能と関係が深い経脈です。衝脈を通じて子宮から出る血液が、月経となります。

 任脈も生殖器を中心に広がる経脈ですが、こちらは静脈系を中心に分布し、子宮機能と関係が深い経脈です。妊娠と胎児の養育をつかさどります。帯下(おりもの)や分娩とも密接な関係があります。

 これら衝脈と任脈の機能が失調すると、不正性器出血が生じます。漢方では、衝任の失調の原因となっている臓腑や気血の機能を漢方薬で立て直すことにより、不正性器出血の治療をします。

 不正性器出血の証には、以下のようなものがあります。

 一つ目は「腎陽虚(じんようきょ)」証です。腎は五臓の一つで、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖、並びに水液や骨をつかさどります。その腎の陽気が不足している体質が腎陽虚です。陽気とは気のことで、人体の構成成分を陰陽に分けて考える場合、陰液と対比させて陽気と呼びます。生活の不摂生、過労、慢性疾患による体力低下、加齢などにより人体の機能が衰えて冷えが生じるとこの証になります。腎陽が虚弱になると、衝任の機能が弱まり、不正性器出血が生じます。経血は比較的薄い赤色をしています。腎陽を補う漢方薬で不正性器出血を治します。

 二つ目は「腎陰虚(じんいんきょ)」証です。腎の陽気ではなく、陰液が不足している体質です。陰液とは、人体の構成成分のうち、血・津液・精を指します。過労、不規則な生活、大病や慢性的な体調不良、加齢などにより精が減ると、衝任の機能を守りきれなくなり、不正性器出血が生じます。経血は濃い目の赤色になります。腎の精気など、腎陰を補う漢方薬で不正性器出血を治します。

 三つ目は「脾気虚(ひききょ)」証です。消化吸収や代謝をつかさどる五臓の脾の機能(脾気)が弱く、生命エネルギーを意味する「気」が不足している体質です。過労、生活の不摂生、慢性疾患などにより気を消耗すると、この証になります。気の機能の一つに、血など人体に必要なものが体外に漏れ出ないようにコントロールする働き(固摂作用)がありますが、気虚になるとこの力が弱まり、出血しやすくなります(気不統血)。漢方薬で脾気を強めて不正性器出血の治療を進めます。

 四つ目は「血熱(けつねつ)」証です。味の濃い物、脂っこい物など濃厚な食生活や、精神的なストレス、長期の体調不良などにより生じた熱邪が、血に侵入した証です。熱邪の影響で出血が促され、不正性器出血が生じます。精神的なストレスや濃厚な食生活により熱邪の勢いが盛んになって生じる「実熱」証と、長期の体調不良などによって陰血が消耗し、相対的に熱の勢いが強くなる「虚熱」証とがあります。実熱の場合は血熱を冷まし、虚熱の場合は陰血を補うことにより、不正性器出血を解消します。

 五つ目は「血瘀(けつお)」証です。血流が鬱滞しやすい体質です。精神的ストレスや、冷え、体内の過剰な水分、生理機能の低下などにより、この証になります。疾患が慢性化して長引いて血流が悪くなり、この証になる場合もあります。血行が悪くなるために血行不良になり、衝任から血があふれ出て不正性器出血になります。血行を促進し、鬱血を取り除く漢方薬で、不正性器出血を治療します。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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