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腹部膨満感に効く漢方(1)
腹部膨満感の考え方と漢方処方

2015/04/06
野村和博

 腹部膨満感は、腸管内にガスがたまったり、飲食物が停滞したりして生じます。

 ガスがたまる原因には、唾液や食べ物と一緒に空気を飲み込んでしまう場合や、腸内細菌の作用によってガスが多量に発生してしまう場合などがあります。前者は、呑気症(どんきしょう、空気嚥下症)とも呼ばれます。

 膨満感はそれ自体不快なだけでなく、腸内の空気が多いためにおなかが鳴ってしまい(腸鳴)、それが気になる人もいます。

 腹部膨満感と関係が深いのは、五臓六腑の脾胃です。胃は六腑の一つであり、飲食物を受け入れ(受納)、消化し(腐熟)、食べた物を人体に有用な形(清)に変化させてそれを脾に渡し、残りのかす(濁)を下の小腸・大腸に降ろします(降濁)。脾は五臓の一つであり、清を吸収して肺に持ち上げ(昇清)、気血を生成し、全身に輸送(運化)します。この脾胃の機能の失調により、腹部膨満感が生じます。

 漢方では、腹部膨満感の原因となっている脾胃の機能を漢方薬で立て直すことにより、腹部膨満感を治療します。脾胃機能を失調させた原因が明らかな場合は、そちらの改善も進めます。

 腹部膨満感の証には、以下のようなものがあります。

 一つ目は「脾気虚(ひききょ)」証です。消化吸収や代謝をつかさどる五臓の脾の機能(脾気)が弱い体質です。このために腹部がもたれて張りやすくなっています。食欲不振や味覚の鈍化もみられます。漢方薬で脾気を強めて運化を正常に行わせ、腹部膨満感の治療を進めます。

 二つ目は「脾陽虚(ひようきょ)」証です。脾気虚証に加えて、体を温める力が衰えている体質です。おなかや手足が冷えやすく、おなかがしくしく痛みます。消化吸収機能を調えて体内のエネルギーを高め、体を芯から温めてくれる漢方薬が有効です。

 三つ目は「脾気陰両虚(ひきいんりょうきょ)」証です。脾気虚証に加えて、脾の陰液も不足している体質です。脾気虚が長期化した場合にみられやすい証です。陰液が少ないので、口唇の乾燥などもみられます。脾気と陰液を補う漢方薬で、慢性的な腹部膨満感を治していきます。

 四つ目は「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。体の諸機能を調節(疏泄[そせつ])する臓腑である五臓の肝の機能(肝気)の流れが滞っている体質です。ストレスや緊張が持続すると、この証になります。肝気の流れが悪化して、その影響が脾に及ぶと脾気が停滞し、腹部膨満感が生じます。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、腹部膨満感を治していきます。

 五つ目は「湿困脾胃(しつこんひい)」証です。脾が正常に機能していると、飲食物は脾に停滞することなくどんどん運化されますので、脾は乾燥しているのが理想的です。ところがここに湿邪が過剰に侵入すると、脾の機能が阻害され、運化がうまくいかなくなり、この証になります。湿邪は病邪の一つで、湿気のようにねっとりとした症候を引き起こす病邪です。脾胃の運化機能の低下や、五臓六腑の肺、腎、肝、三焦(気や津液の通路としての臓腑)の機能失調により、水分代謝に障害が生じて発生します。漢方薬で脾胃の湿邪を除去することにより、腹部膨満感を治します。

 六つ目は「湿熱(しつねつ)」証です。湿熱は体内で過剰な湿邪と熱邪が結合したものです。湿困脾胃証が長期化して熱を帯びると、この証になります。あるいは、脂っこい物、刺激物、味の濃い物、生ものやアルコール類の日常的摂取や大量摂取、不潔な物の飲食などによっても、この証になります。湿熱邪が脾気を阻害することにより、腹部膨満感が発生します。漢方薬で湿熱を除去し、腹部膨満感を改善していきます。

 七つ目は「寒凝(かんぎょう)」証です。寒い季節や寒冷の環境、冷たい飲食物の摂取などにより、寒冷の性質を持つ病邪である寒邪(かんじゃ)が体内に侵入すると、この証になります。寒邪が脾胃の機能を停滞させるため、腹部膨満感が生じます。おなかを温める力の強い漢方薬で、腹部膨満感を緩和させていきます。

 八つ目は「食滞(しょくたい)」証です。暴飲暴食や、消化が悪い物の飲食により、脾胃に負担が掛かっている状態です。胃の降濁機能が失調し、腹部膨満感が生じます。胸やけや吐き気、げっぷもみられます。漢方薬で消化吸収機能を促進して停滞を緩和させ、腹部膨満感を治します。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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