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不安感に効く漢方(1)
不安感の考え方と漢方処方

2014/05/14

 日常生活の中でちょっとしたことなどで不安を感じることは、特に病気というわけではなく、人間らしい健全な心の動きです。しかし不安が募り、あるいは長期化して、動悸、不眠、集中力の低下、息切れ、胸苦しい、焦燥感などの症候が生じるようであれば、不安を和らげて体調を改善したいものです。

 不安を感じることはあっても、それが体調の悪化に影響しないようにするために、漢方薬で体質改善を進めます。

 漢方では、不安感は五臓の心(しん)の機能不調が大きく影響していると考えます。心は五臓の一つであり、心臓を含めた血液循環(血脈)をつかさどるだけでなく、人間の意識や思惟など、高次の精神活動(神志 [しんし])をもつかさどる臓腑です。

 この心の機能が弱ったり、十分潤わされなかったり、余分な熱を帯びたりすると、神志が不安定になり、不安感が生じます。精神情緒をつかさどる五臓の(かん)の機能が乱れて不安感が強くなる場合もあります。

 不安感の証(しょう)には、以下のようなものがあります。

 一つ目は「心気虚(しんききょ)」証です。血脈や神志をつかさどる心の機能(心気)が低下している体質です。心気の不足により、不安感が生じます。疲れやすく、動悸、息切れなどの症状もみられます。ベースとなる気力や体力が弱いので、普通の人なら気にならないことでも気になってしまうところがあります。この場合は、心気を漢方薬で補うことで心の機能を強化し、不安感を解消していきます。

 二つ目は「心血虚(しんけっきょ)」証です。心の機能を養う心血が不足している体質です。過度の心労や、思い悩み過ぎ、過労が続くことにより心に負担がかかり、心血が消耗してこの証になります。心血の不足により神志が不安定になり、不安感が高まります。どきどきしやすく、驚きやすいようなところがあります。漢方薬で心血を潤して不安感を軽くしていきます。

 三つ目は「心陰虚(しんいんきょ)」証です。心の陰液が不足している体質ですので、心が十分潤わされず、不安感が生じています。些細なことにでも不安を感じます。漢方薬で心の陰液を補い、神志を安定させて不安を解消させていきます。

 四つ目は「心火(しんか)」証です。神志をつかさどる心が過度の刺激を受けて亢進し、熱を帯びて心火となり、不安感が引き起こされている状態です。じっとしていられず、あせりを感じ、不安で落ち着きません。悶々として目がさえて眠れません。心火を冷ます漢方薬で不安を鎮めます。

 以上の四つが、五臓の心の不調に関連して不安感が高まっている証の例です。ほかにも以下のような証があります。

 五つ目は「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。五臓の肝(かん)は、身体の諸機能を調節する臓腑です。自律神経系や情緒の安定、気血の流れと関係が深く、ストレスや緊張で機能が乱れ、この証になります。気の流れが悪くなることにより、小さな刺激に対しても敏感になっており、不安感が高まります。肝の機能(肝気)の鬱結を和らげて、ストレス抵抗性を高める漢方薬で過度の不安を治していきます。

 六つ目は「肝火(かんか)」証です。強いストレスや激しい感情の起伏などで肝気が失調すると、肝気の流れが鬱滞して熱を帯び、この証になります。不安感のほかに、不眠、いらいら、怒りっぽい、ヒステリーなどの症状がみられます。肝気の流れをよくして肝火を鎮める漢方薬を使います。

 心火と肝火は、不安の種が強くのしかかってきたときや、いくつかの不安の種が積み重なって大きくなったときにみられやすい証です。それ以外の心気虚や心血虚などの証は、ちょっとした小さなことに対してもすぐに不安を感じてしまう、慢性的に不安にさいなまれやすいタイプの証です。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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