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多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に効く漢方薬(1)
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の考え方と漢方処方

2013/10/01

 多嚢胞性卵巣症候群(Polycystic ovary syndrome=PCOS)は、排卵がうまく行われないために月経周期が延長したり(希発月経)、無月経になったり、不妊症になったりする疾患です。不正性器出血がみられる場合もあります。男性ホルモン値の上昇により、多毛、にきびなどの男性化症状が現れることもあります。

 通常の排卵では、卵胞の表面が破れ、卵胞のなかから卵子が放出されます。しかし卵巣の表面が硬く肥厚していると、卵子が放出されにくくなり、排卵が困難になります。そして排卵が行われないと、卵胞がそのまま卵巣内に残ります。この結果、卵巣内に卵胞がたくさん滞留(多嚢胞化)し、多嚢胞性卵巣(Polycystic ovary=PCO)という状態になります。

 超音波画像で見ると、卵巣の表面に沿って卵胞が数珠つなぎに並んで見えます(ネックレスサイン)。多嚢胞性卵巣は、女性の数%にみられるといわれています。多嚢胞性卵巣であっても、自然に排卵、妊娠する場合もあるので、自分がそうだと気付かずに過ごしている女性も多いようです。

 とはいうものの、多嚢胞性卵巣だと排卵に障害が出ることが多く、月経異常や不妊などの症候が生じやすくなります。こうなると多嚢胞性卵巣症候群といえます。多くの場合は、不妊や生理不順、無月経などで悩む人が婦人科を受診し、検査によって多嚢胞性卵巣症候群だとわかります。不妊の原因の1〜2割を占めるといわれています。排卵障害というだけでなく、卵巣に送られてくる栄養を多数の卵胞で分かち合うので卵の質がよくないともいわれています。

 西洋医学的には、黄体形成ホルモン(黄体化ホルモン:Luteinizing hormone=LH)値が高いのが原因のひとつと考えられています。卵胞刺激ホルモン(Follicle stimulating hormone=FSH)は正常範囲内で、ホルモンバランスがLH>FSHという状態です。男性ホルモン値の高値(高アンドロゲン血症)、高プロラクチン血症、血中インシュリン濃度の上昇、肥満などとの関連もあるようです。

 西洋医学では、クロミフェン療法やhMG−hCG療法(ゴナドトロピン療法)など、ホルモン剤で排卵を誘発する方法がとられます。腹腔鏡下卵巣焼灼術という外科的処置もあります。妊娠を希望しない場合は、ピルや黄体ホルモン製剤、カウフマン療法によるホルモン治療なども行われます。

 漢方では、多嚢胞性卵巣症候群になった体質そのものを改善していきます。

 多嚢胞性卵巣症候群の証には、以下のようなものがあります。

 一つ目は「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。五臓の肝(かん)は自律神経系や情緒の安定と関係が深く、ストレスや緊張で機能が乱れます。緊張しやすい体質でもあります。その結果、気の流れが滞り、卵巣機能に影響が出ます。肝気の流れを改善し、ストレス抵抗性を高める漢方薬で、スムーズに排卵できる体質へと改善していきます。

 二つ目は「血瘀(けつお)」証です。血流が鬱滞しやすい体質です。卵巣周辺でもうっ血が生じて排卵しにくくなっていると考えられます。血行を促進し、うっ血を取り除く漢方薬が有効です。

 三つ目は「痰飲(たんいん)」証です。痰飲とは、体内に停滞する異常な水液や物質のことです。精神的ストレスや暴飲暴食などで生じた痰飲が、卵巣機能を低下させるケースです。痰飲を除去する漢方薬で排卵しやすい体質をつくっていきます。

 四つ目は「腎虚(じんきょ)」証です。腎は五臓のひとつで、生きるために必要なエネルギーや栄養を貯蔵しているところです。その腎が弱いため、ホルモン内分泌系や生殖器の機能が低下しています。漢方薬で腎の機能を補い、ホルモンバランスを調えて、自然な生理周期や排卵へと体調を安定させていきます。

 五つ目は「脾気虚(ひききょ)」証です。消化吸収や代謝機能をつかさどる五臓の脾が弱く、体内の気血(エネルギーや栄養)が不足している体質です。このために排卵機能も低下していると考えられます。排卵する力を強めるべく、漢方薬で体力や気力を補って治療を進めます。

 六つ目は「脾陽虚(ひようきょ)」証です。五つ目の脾気虚証に加えて、からだを温める力が衰えている体質です。おなかが冷えやすく、卵巣機能に影響を与えています。消化吸収機能を調えて体内のエネルギーを高め、からだの芯から温めてくれる漢方薬が有効です。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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