DI Onlineのロゴ画像

寝汗に効く漢方薬(1)
寝汗の考え方と漢方処方

2013/08/27

 蒸し暑い夜に汗をかくのは正常な生理現象ですので何の問題もありませんが、不快な寝汗は、体内で何か健康を阻害する要因があることを示す症候の一つです。

 汗は津液(しんえき)の一種です。津液とは、生命活動に必要な水液のことです。津液は気とともに体内を循環していますが、寝汗をかいて無駄に津液が体外に漏れ出ることにより、体内にとどめておきたい大切な気も、汗と一緒に漏れ出てしまいます。その結果、朝から疲れを感じるなど、体調が不安定になっていきます。

 寝汗のことを、中医学では盗汗(とうかん)といいます。まさに眠っている間に、人体に必要な津液と気がこっそりと盗み出される――寝汗とはそんな症候なのです。

 一日のサイクルを漢方の視点に当てはめると、日中が陽で、夜間が陰です。昼間は陽気が盛んになり、夜間は陰気が盛んになります。人間の体は、機械やプラスチック製品と違って生命体ですので、私たちの体調は自然界や宇宙のリズムに合わせて変化しています。

 汗のコントロールをしているのは、衛気(えき)です。衛気とは、体表を守り、外界からの病邪の侵入から人体を防衛する気の一種で、陰陽の「陽」に含まれます。従って夜、眠っている間は衛気の機能が低下します。

 健康状態に問題がないのなら、季節に合った寝間着を身につけて、寝具をかけて寝ていれば、衛気が少しばかり低下しても大丈夫です(さすがにおなかを出して寝れば体調を崩します)。しかし、体調が万全でないときは、衛気の不足に便乗して病邪が勢いを増し、夜間に体調が悪化して寝汗が生じます。

 寝汗の証(しょう)には、以下のようなものがあります。

 一つ目は「肺衛不固(はいえふこ)」証です。肺は五臓のひとつで、汗の分泌の調整をする臓腑です。肺の機能が弱いと衛気が不足し、汗が出ます。衛気が衰える夜間に発汗が過剰になり、寝汗となります。肺気を補う漢方薬で衛気を強め、寝汗を改善していきます。

 二つ目は「心血虚(しんけっきょ)」証です。心(しん)は五臓のひとつで、思考・思惟活動をつかさどります。過度の心労が絶えないと心に負担がかかり、心血が消耗してこの証になります。その結果、衛気が衰え、寝汗をかくことになります。漢方薬で心血を潤して寝汗をなくしていきます。

 三つ目は「陰虚火旺(いんきょかおう)」証です。慢性的な体調不良や過労により陰液が消耗すると、相対的に熱邪が旺盛になり、この証になります。熱邪は、衛気が弱くなる夜間に勢いを増し、津液を寝汗として体外に放出します。漢方薬で陰液を補って寝汗を治します。

 四つ目は「湿熱(しつねつ)」証です。脂っこい食事やアルコール類を、日常的に取ったり、大量に摂取したりすることによって生じた湿熱が、衛気が弱い夜間に漏れ出て寝汗が生じます。漢方薬で湿熱を除去し、寝汗を治療します。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

この記事を読んでいる人におすすめ