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下痢に効く漢方薬(1)
下痢の考え方と漢方処方

2013/06/04

 下痢は、基本的に胃腸が弱い人に起こる症候です。胃腸が丈夫な人は、ちょっとくらい暴飲暴食しても、下痢にはなりません。漢方でも、まずは消化吸収機能をつかさどる五臓の脾を強化することが、下痢の治療の基本となります。ただし、いくら胃腸が丈夫な人でも、冷たい物を飲食しすぎたり、不潔な物を食べたり、あるいは強いストレスが持続的に掛かったりすると、下痢になります。こういう場合は漢方でも、それら下痢の原因となる物を体内から除去して下痢を治していきます。一般には、胃腸が丈夫ではない体質が根本にあり、その上に下痢を引き起こす要因が重なって下痢をする場合が多いでしょう。

 下痢の証(しょう)には、以下のような物があります。

 一つ目は「脾気虚(ひききょ)」証です。消化器系の機能が弱い体質です。体力的にも丈夫でない人が多く、ちょっとしたことで下痢になります。食後すぐ排便するタイプです。こういう体質の人に対しては、胃腸機能を丈夫にする漢方薬を使って治療を進めます。

 二つ目は「脾陽虚(ひようきょ)」証です。一つ目の脾気虚証に加えて、からだを温める力が衰えている体質です。おなかや手足が冷えやすく、消化不良ぎみの便が出る場合も少なくありません。腹部を温めて消化吸収機能を高める漢方薬が有効です。

 三つ目は「肝気横逆(かんきおうぎゃく)」証です。ストレスや情緒変動の影響で気の流れが悪くなっている体質です。自律神経系が失調しやすく、下痢が生じやすくなっています。漢方薬で気の流れを調えて下痢を治療していきます。

 四つ目は「脾虚肝乗(ひきょかんじょう)」証です。もともと消化器系が丈夫でないために、自律神経系などをつかさどる肝の機能を制御しきれず、ちょっとした緊張や不安で体調を崩しやすい体質です。心身のバランスが安定しにくい体質ともいえます。漢方では、消化器系の機能を高めつつ、ストレスを和らげて下痢を解消していきます。

 五つ目の証は「湿熱痢(しつねつり)」です。脂っこい物、刺激物、味の濃い物、生ものやアルコール類の日常的あるいは大量摂取により生じた湿熱が消化吸収機能を阻害し、下痢が生じます。湿熱は体内で過剰な湿邪と熱邪が結合した物です。漢方薬で湿熱を除去し、下痢を治療します。

 六つ目の証は「寒湿痢(かんしつり)」です。冷たい飲食物のとりすぎや寒い環境での滞在により発生した寒湿が脾胃の機能を低下させ、下痢となります。寒湿は体内で過剰な寒邪と湿邪が結合した物です。からだを温めて消化吸収機能を強める漢方薬を使います。

 ほかには夜明け前に下痢をするのが特徴の「腎陽虚衰(じんようきょすい)」証などもあります。この証の根底には、老化や慢性病による衰弱があります。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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