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パニック障害に効く漢方(1)
パニック障害の考え方と漢方処方

2012/08/16

肉豆蔲(にくずく)
ニクズク科の常緑高木ニクズクMyristica fragransの種子。
胃腸を温めて気を流す働きがあります。消化不良や下痢、嘔吐に用いられます。
一般に1.5~4.5gを煎じて服用します。香辛料のナツメグと同じものです。

 人は危険を察知すると、それに対処するためにさまざまな変化が体に起こります。例えば心拍数が上がり、血流量が増えます。ところが、ときとしてこの仕組みが敏感すぎたり不安定だったりするために、とくに危険が迫っていないのにスイッチが入ってしまう場合があります。これがパニック発作です。

 パニック発作が起こると、不安感や恐怖感が高まり、動悸、めまい、ふるえ、冷や汗、呼吸困難などの症状が表れます。パニック障害です。このまま死んでしまうのではないか、という恐怖を感じることもあります。

 一回の発作は長く続かない場合も多く、救急車で運ばれて病院に着いたころには症状がかなり治まっている場合もあります。検査をしても異常がみつからないケースがほとんどのようです。

 しかし厄介なことに、パニック発作は多くの場合、繰り返して起こります。そのため、また発作が起こるのではないかという不安や恐怖を感じ続けることになります。とくに発作を起こした状況や場所、あるいはそれに似たシチュエーションには近づけず、例えば急行電車や飛行機には乗れなくなるなど、日常生活が制約されることになります。睡眠中など、リラックスしている状況で発作が生じる場合もあります。

 西洋医学的には、セロトニン・ノルアドレナリンなど脳内の神経伝達物質のバランスの失調がパニック障害と関係が深いという観点から、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、抗不安薬などが処方されます。

 漢方では、不安を感じやすいパニック体質を改善していくことにより、パニック障害の治療を進めます。そこには五臓の心(しん)・肝(かん)・脾・腎が深く関与しています。五臓とは、解剖学的な内臓・臓器とは違い、機能も含めた概念です。人体のすべての機能は、五つの臓のどれかに含まれます。五臓がバランスよくお互いに影響し合っているとき体調は良好ですが、バランスが崩れると体調が悪化します。

 基本は「心身一如」。心と体は切っても切れない関係にある、という漢方思考です。パニック障害をはじめとする心のトラブルも、五臓の相互関係の不均衡と関係があります。つまり、五臓というからだ全体のバランスを安定させることにより、不安体質・パニック体質を改善していきます。神経伝達という局所的な現象を化学薬品でコントロールするのとはまた別のアプローチです。

 パニック障害の証(しょう)には、以下のようなものがあります。

 一つ目は「脾気虚」証です。消化吸収や代謝機能をつかさどる五臓の脾が弱く、体内の気血が不足しているため、中枢神経系も衰弱しており、パニック発作を起こしやすい体質です。漢方薬で体力や気力を補ってパニック障害を改善していきます。

 二つ目は「心血虚」証です。精神活動をつかさどる五臓の心(しん)が満たされていないために、不安を感じやすい体質です。心血を補う漢方薬を使います。

 三つ目は「肝鬱気滞」証です。情緒をつかさどる五臓の肝(かん)の気が鬱滞している体質で、刺激に敏感です。漢方薬で気の流れをよくしていくことで、パニック体質を改善していきます。

 四つ目は「腎虚」証です。生命力の貯蔵庫ともいえる五臓の腎の機能が衰弱している体質で、心身ともに弱っている状態です。びくびくと恐怖を感じやすくなっています。腎を補う漢方薬で、体の根本から立て直していきます。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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