DI Onlineのロゴ画像

耳鳴りに効く漢方(1)
耳鳴りの考え方と漢方処方

2012/05/15

大棗(たいそう)
クロウメモドキ科の落葉高木サネブトナツメZizyphus jujuba などの成熟果実。胃腸機能を調整し、精神安定、滋養作用があります。一般に5~20グラムを煎じて服用します。

 耳鳴りは、年齢とともに増加する症状の一つです。実際には音がしていないのに、あるいは実際の音とは関係なく、耳のなかで音を感じます。疲れたときなどにたまに聞こえてくるくらいならよくあることですが、四六時中、耳の奥で耳鳴りがするようになると、ちょっと厄介です。

 聞こえてくる音は、ジージーと蝉が鳴くような音だったり、キーンという高音だったり、さまざまです。内耳の血流やリンパ液の流れ、聴覚神経の不調、筋肉の痙攣などと関係が深いようです。中耳炎やメニエール病、低血圧、貧血などにより、耳鳴りが生じることもあります。耳管で鼻とつながっているため、副鼻腔炎など鼻の病気から耳鳴りが生じるケースもあります。実際の医療現場では、原因不明の場合がいちばん多いようです。

 漢方では、耳の機能と関係が深い五臓の「腎」の失調、あるいは「内風」のいたずらなどにより、耳鳴りが生じやすいととらえています。内風とは、風邪(ふうじゃ)の一つ。風邪とは、自然界の風のように、発病や病態の変化が急であったり、めまいのように揺れ動く症状があらわれたりする病邪で、その原因が体内にある場合、その風邪を内風と呼びます。

 耳鳴りの証(しょう)には、おもに以下のようなものがあると漢方では考えています。

 一つ目は「腎陽虚(じんようきょ)」証です。成長・発育・生殖をつかさどる五臓の「腎」の機能が低下することにより、耳鳴りが生じます。老化や、生活の不摂生、過労、慢性病による体力低下などが根本にあります。腎を補う漢方薬を使って耳鳴りを治します。

 二つ目は「肝腎陰虚(かんじんいんきょ)」証です。一つ目と同じく「腎」と、それに血流や情緒の調整をつかさどる「肝」の不調、特に陰液の不足により、耳鳴りが生じます。陰液とは、人体の構成成分のうち、血(けつ)・津液(しんえき)・精を指します。これが不足すると「陰虚」証になり、虚熱が生じ、耳鳴りを引き起こします。肝腎陰虚には、肝腎の陰液を補う漢方薬を使います。

 三つ目は「肝陽化風(かんようかふう)」証です。自律神経系をつかさどる「肝」が乱れて内風が生じているタイプです。ストレスや情緒変動が引き金となり、耳鳴りやめまいなどの症状があらわれます。この証の人に対しては、五臓の肝を落ち着かせて内風を和らげる漢方薬で治療を進めます。

 以上の証のほかに、精神的ストレスに熱証が加わった「肝火(かんか)」証、血行の悪化やうっ血で耳鳴りが発生する「血瘀(けつお)」証なども、よくみられます。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

この記事を読んでいる人におすすめ