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癌に効く漢方(1)
癌の考え方と漢方処方

2012/02/13

枳殻(きこく)
ミカン科の常緑高木ダイダイCitrus aurantium の成熟間近の果実。
気をめぐらし、胃腸機能を整えます。
一般に3~9グラムを煎じて服用します。

 1981年以来、日本人の死因のトップは、癌です。日本では2人にひとり以上が癌になり、3人にひとりが癌で亡くなっています。癌は、最も恐れられている病気のひとつです。

 癌は、それまで正常だった自分自身の細胞が突然癌細胞に変わることにより起こる病気です。これも、癌が恐れられる理由のひとつです。人体を構成する約60兆個の細胞は、毎日細胞分裂を繰り返し、少しずつ新しい細胞と入れ替わっているわけですが、その過程で、健康な人の体内でも、毎日およそ3,000個の癌細胞が発生しているといわれています。だれにでも癌になる可能性があるわけです。癌になるか、ならないかは、その人がもつ免疫力に大きく依存しています。

 さらに、癌は転移などで全身に広がりやすい病気です。癌細胞が血液やリンパ液に運ばれて周囲の組織や離れた臓器に飛び火し、そこでも病巣を作り、転移先の臓器の機能を乱します。癌ができたら転移の予防も重要な命題です。

 癌になる人は年々、増えています。最大の理由は高齢化です。最初の癌細胞が命を脅かす大きさの癌になるまでに数十年という年月が必要なのです。その間に遺伝子の損傷が増え、癌が大きくなります。

 主な要因のひとつは、好ましくない生活習慣の積み重ねです。喫煙、運動不足、暴飲暴食、ストレスなどが癌の成長を助長するのは、多くのデータの示すところであり、有識者の見解です。“元気で”長生きしたいのであれば生活習慣を見直すことが必要です。

 西洋医学では、手術、抗癌剤治療、放射線治療などが行われます。癌化のメカニズムは遺伝子レベルで解明が進み、抗癌剤の開発も進んでいます。いずれも、癌そのものに着目し、癌を減らしたり弱らせたりする治療法です。

 漢方には「扶正祛邪(ふせいきょじゃ)」という治療原則があります。扶正とは、正気を扶助する、つまり人が生きるために必要な機能や高め、物質を満たすことです。そして祛邪とは、病邪を祛除する、つまり病気を追い払うことです。病気の背景に正気の衰弱がみられる場合は「扶正」を主とし、病邪の勢いが強くても正気がじゅうぶん機能するようなら「祛邪」を旨とします。

 漢方にも、癌に直接作用して癌を減らしたり弱らせたりする生薬などはあります。扶正祛邪のうち祛邪の部分です。しかし効果は西洋医学的な方法に及ばないでしょう。祛邪については西洋医学が効果的です。

 漢方が力を発揮できるのは、扶正祛邪の「扶正」の部分です。患者さんの免疫力を高めることにより、癌の治療を進めます。

 免疫力を高めるためには、あるときは気血(きけつ)を補い、またあるときは臓腑のバランスを調える漢方薬を処方します。基本的には、ほかの病気と同じように、まず患者さんの証(しょう)をしっかりと把握して、それに合わせた処方を決めることです。ひとりひとり、弱っている機能はまちまちです。その弱点を漢方薬でカバーすることにより、免疫力を高め、癌に対処していきます。

 癌の再発予防、あるいは転移や浸潤を抑えて悪化防止をしたい場合も同じです。川の氾濫が懸念されるとき、川が氾濫して洪水になる前に堤防を作り、あるいは修復、補強、強化しておくことが漢方薬の「扶正」の役割です。

 癌の治療や予防以外にも、手術や抗癌剤、放射線療法などで衰弱した患者の生命力を立て直すのにも漢方薬は有効です。癌細胞に対して直接攻撃する力は放射線療法や抗癌剤に遠く及びませんが、患者さんの免疫力や自然治癒力を高める力が漢方薬にはあります。また、抗癌剤や放射線治療の副作用を和らげるのにも漢方薬は使われます。

 漢方薬は、癌に対して懸命に「扶正」し、病巣の拡大や転移を食い止め、手術などによるダメージからの回復を促し、抗癌剤治療などの副作用の軽減にも役立つものです。

 いくつか症例をみてみましょう。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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