
玫瑰花(まいかいか)
バラ科の落葉低木ハマナスRosa rugosa の花蕾。
気のめぐりを整える働きがあり、ストレスによる腹痛や下痢、生理不順に用います。
一般に5~9グラムを煎じて服用します。
(写真:室川イサオ)
心臓はいつでも拍動して働いてくれており、ふだんは特にその拍動が気になるものではありません。しかしそれがいつもより大きくなったり速くなったりすると、あ、心臓がドキドキしている、と、動悸を自覚するようになります。
動悸は、走ったり急いだり運動したりすれば、誰にでも生じます。緊張したり不安を感じたり恐怖映画を観たりしたときも起こります。初恋の相手にプレゼントを渡したときや、大きな会議で発言しなくてはいけないときに起こる動悸も、別に病気ではありません。
ただ、走ってもいないのに急に心臓がドキドキしたり、ちょっとした緊張や不安ですぐ動悸がして苦しくなったり、寝る前に部屋を暗くして静かにしていると動悸がしてきたり、動悸が気になって眠れなかったり、というケースもあります。不整脈や狭心症、心筋症、貧血などの場合も動悸が生じますが、そういう疾患がなくても動悸に悩まされることは少なくありません。
動悸とは困ったもので、気になりだすとどんどん気になってしまいます。部屋の時計や冷蔵庫の音が、意識をすれば聞こえてくるのと似たところがあるかもしれません。特に心臓は病気になると命に関わることが多いので、不安も伴います。実際には正常な範囲内の心臓の拍動でも、そういう「気になってしまう」「不安になる」という面も関係して動悸を感じる場合もあるでしょう。実際、脈拍が遅い徐脈でも動悸が生じることがあります。
漢方の立場からみると、動悸は、多くの場合、五臓の「心(しん)」の機能が乱れたときに生じます。心は血液循環と、思考や判断などの精神活動をつかさどる臓腑です。心臓を含めた循環器系や、高次神経系に相当します。この心の機能が不安定になると動悸が起こりやすくなります。先の「気になってしまう」「不安になる」という要因も、この漢方の考え方に従うと、しっくりとおさまります。
漢方では、動悸が起こりやすい証(しょう)には、主に以下のようなものがあると考えています。
一つ目は「心血虚(しんけっきょ)」証です。心臓など循環器系や中枢神経系への血液補給があまりじゅうぶんでない体質です。この証の人は、不安を感じやすく、驚きやすいようなところがあります。この証の人に対しては、五臓の心(しん)に血(けつ)を補っていく漢方薬で治療を進めます。
二つ目は「心気虚(しんききょ)」証です。循環器系の機能がやや低下しているような体質です。疲れやすく、動悸プラス息切れもしやすい人が多い証です。ベースとなる気力や体力が弱いので、普通の人なら気にならないことでも気になってしまうところがあります。この場合は、心の気を漢方薬で補うことで機能を強化し、動悸を解消していきます。
三つ目は「痰湿(たんしつ)」証です。痰湿というのは体内にたまった過剰な水分や湿気のことで、これが原因で体調を崩している場合がこの証です。胸が苦しい、胃がつかえるなどの症状が同時によくみられます。この場合は、過剰な水分や湿気を取り除く漢方薬で体質を改善していきます。
四つ目は「血瘀(けつお)」証です。血流がよくない体質です。血行がよくないために心臓などに負担がかかり、動悸が現れます。この証の場合は、血瘀を改善する漢方薬を使います。
五臓の脾や腎などの機能が低下して動悸が生じる場合もあります。それらの不調が心(しん)に影響を及ぼした結果として動悸が起こることもあります。
では、まず「心血虚」証の症例からみていきましょう。