
熟地黄(じゅくじおう)
ゴマノハグサ科の多年草アカヤジオウRehmannia glutinosa
またはカイケイジオウR. glutinosa f. hueichingensis の根茎を加工したもの。
体で必要とされる水分や養分を補います。疲労や老化現象などに用います。
一般に9~30グラムを煎じて飲みます。胃が弱い人の場合は注意が必要です。
(写真:室川イサオ)
快食、快眠、快便は元気のバロメーターだとよく言われます。おいしく食べて、ぐっすり寝て、すっきり排便できていれば、まずは健康だと言えるでしょう。毎日、朝の目覚めがさわやかで、三度の食事の前にはちゃんとおなかがすいて、健康的なウンチがスキッと出てくれれば、体調だけでなく、気分も爽快です。
ところが腸の調子がよくないと、バナナ状のウンチがスッキリと出る……とはなかなかいきません。慢性的に下痢ぎみだったり、逆に便秘症でコロコロとウサギの糞のような便しか出なかったり、あるいはガスがたまって下腹がパンパンに張ってしまったり。
過敏性腸症候群(IBS)は、腸、主に大腸の運動や分泌の機能異常により生じる病気の総称です。検査をしても一般に異常は見つかりませんが、便通や下腹部の不調が現れます。通勤や通学の途中でお腹が痛くなって途中下車する、いつ下痢に襲われるか心配で急行電車に乗れない、会議中や授業中にお腹が痛くなるなど、生活や仕事に支障をきたす場合も少なくありません。
一般には症状によって交替型(不安定型)、下痢型、便秘型、ガス型、分泌型などに分類されます。交替型は下痢になったり便秘になったりするタイプで、分泌型とは強い腹痛のあと粘液が排泄されるタイプです。
現代医学的には、腸の運動をつかさどる自律神経系の異常や、精神的なストレス、不安、過度の緊張などが原因と考えられています。暴飲暴食やアルコール類の飲みすぎ、喫煙、不規則な生活、過労などが原因となる場合もあります。大腸の蠕動(ぜんどう)運動が盛んになりすぎたり、大腸が痙攣したりしてしまうと、下痢や便秘、ガスがたまるといった症状が現れます。
漢方では、過敏性腸症候群になりやすい証(しょう)には、主に以下のようなものがあると考えています。
一つ目は「脾気虚(ひききょ)」証です。消化器系の機能が弱い体質です。体力的にも丈夫でない人が多く、ちょっとしたことで下痢や便秘になりやすいタイプです。消化不良ぎみです。こういう体質の人には、胃腸機能を丈夫にする漢方薬を使って治療を進めます。
二つ目は「脾胃不和(ひいふわ)」証です。ストレスや、食生活の乱れ、冷えなどの影響で、下痢や吐き気が生じやすくなっている体質です。ちょっとしたストレスや刺激でも胃腸が変調を起こしやすい体質なので、こういう場合は漢方薬で鎮静、整腸、健胃していきます。
三つ目は「肝気横逆(かんきおうぎゃく)」証です。ストレスや情緒変動の影響で気の流れが悪くなっています。そのために自律神経系が失調しやすく、便秘や下痢が生じやすくなっています。漢方薬で気の流れを調えて治療していきます。
四つ目の証は「脾虚肝乗(ひきょかんじょう)」といいます。もともと消化器系が丈夫でないために肝(自律神経系など)の機能を制御できず、ちょっとした緊張や不安で体調を崩しやすい体質です。心身のバランスが安定しにくい体質ともいえます。漢方では、消化器系の機能を高めつつ、ストレスを和らげていきます。
まずは「肝気横逆」証で交替型の過敏性腸症候群の症例からみていきましょう。