
(写真:室川イサオ)
漢方を飲んでいる人は、女性のほうが多いようです。私の薬局では患者さんの男女比はおよそ1:1ですが、一般の漢方薬局や診療所では6:4から8:2くらいの割合で女性が多く、さらに女性専用のところもあるようです。
これは、女性のほうが漢方薬が効くからではなく、女性のほうが体調変化を身近に感じることができるからであり、それゆえ健康に関心があるからです。
男性が自分の健康を意識し始めるのは30歳代くらいからでしょうか。会社の定期検診でなにか検査値がひっかかったり、あるいはとくに検査では異常がないけれど体調の悪化や体力の低下を感じるようになったりするのが、そのくらいの年齢です。
それに比べて女性は若いころから美容や健康に敏感です。思春期から増えるにきびについても、男性はあまり気にしない人が多いのですが、女性は美容上の関心から、男性よりも気にします。ほかにも便秘や肌荒れ、不眠、冷え症、むくみ、摂食障害、甲状腺など、女性がかかりやすい病気も多々あります。
そのなかでもとくに女性には生理(月経)があるということが、女性が健康を意識する最大の要因でしょう。毎月安定した周期で生理が訪れ、しかも生理痛が軽いようでしたらまだ楽ですが、毎月のように生理痛に苦しんだり、月経前症候群(PMS)に悩まされたり、生理不順だったり、生理の量が多すぎたり、と、生理にまつわる病気や悩みは少なくありません。
たとえば生理痛の場合、はじめのうちは生理のたびに鎮痛剤を飲んで痛みを抑えてやり過ごすことでしょう。ところが生理痛が一向に改善されないために何年経っても鎮痛剤が手放せず、ときには鎮痛剤がだんだん効かなくなり、はたしてこのままでいいのかしら、と思うようになります。
そして鎮痛剤で症状を抑えるだけでなく、なにか本質的な改善をしたいと考えるようになったときに出会うのが、からだの中から体質改善をする薬、漢方薬です。
漢方薬は、血液の流れを改善したり、ホルモンバランスを調えたり、自律神経系を調整したりして、からだの内側から生理に関する悩みの根本原因を解決していきます。
女性に特有の悩みには、毎月の生理に関するもの以外に、子宮筋腫や更年期障害などの慢性疾患や、不妊症など妊娠・出産に関するものもあります。これらを何回かに分けて話していきたいと思います。
生理は、臓腑がお互いに安定して協調し合っているとき、正常に来潮します。ところがさまざまな要因により臓腑バランスが乱れたとき、生理不順になったり、生理痛が生じたり、子宮筋腫ができたり、妊娠しにくくなったりします。
臓腑バランスの失調と関連して婦人科系の悩みを生じさせる要因には、おもに以下のようなものがあります。
一つ目は「血瘀(けつお)」です。血流の停滞を意味します。瘀血(おけつ)ともいいます。
二つ目は「寒邪(かんじゃ)」、つまり冷えです。冷えと婦人科系の疾患には深い関係があります。
三つ目は「肝鬱(かんうつ)」です。五臓の「肝」は自律神経系や情緒の安定と関係が深く、ストレスや緊張で「肝」の機能が乱れます。その結果、気の流れがわるくなり、生理に関する諸症状が生じます。
ほかにも要因はいろいろありますが、それらは症例のなかで見ていきましょう。
前述のように、女性が生理に関する不調で漢方薬を飲もうと思うに至る背景には、からだの中から根本的に改善したいという気持ちがあります。漢方薬を処方する際には、その患者さんの体内をどのように改善して病気を根治させていくのかを話して差し上げてください。
たとえば「この漢方薬は血液の流れをさらさらにする薬です。その結果、生理痛が楽になっていきますよ」、あるいは「この漢方は冷え症を改善して生理不順を治していく薬です。おなかを冷やさないように、からだの外側からのケアも忘れないでくださいね」などとひと言そえながら漢方薬をお出しすると喜ばれることでしょう。
今回は生理に関する悩みに効く漢方薬について、生理痛、生理不順、月経前症候群(PMS)の三つの症例に沿って見ていきます。それぞれ一つの症例だけで語り尽くせるものではありませんが、参考にしていただければ幸いです。