
幸福薬局の待合室から調剤室の様子を見ることができます。
(写真:室川イサオ)
血圧を下げるには、いくつかの方法があります。血管という管にかかる水圧を下げるわけですから、循環血液量を減らす、あるいは血管を広げる、血管の収縮を弱める、などの方法があります。利尿薬などは血液量を減らす薬で、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)などは血管を広げる薬です。
高血圧症そのものには自覚症状があまりありませんが、放っておくと血管に負担がかかり続け、血管を傷つけ、さらに心臓その他の臓器にも負担となり、合併症を起こす恐れがあります。動脈硬化や、さらに狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患、脳卒中、腎臓疾患などです。そうなる前に血圧をコントロールしておくことは、病気になる前に発病を防ぐ「未病を治す」観点からも有意義なことです。
高血圧症は、血圧計が発明されるまでは存在しない病気でした。しかし病名は存在しなくても高血圧の人はいたはずです。未病を治す漢方は、血圧計が発明されるずっと以前から血圧をコントロールすることにより他の病気の発病を未然に予防してきたことでしょう。
漢方薬が高い血圧を下げていく方法にはいくつものパターンがありますが、いずれも患者さんの心身全体のバランスを安定させることにより、血圧を下げていくものです。利尿薬などで血圧を機械的に下げるようなことをしなくても、全身の調和がとれてくれば血圧は安定していくものです。
心身全体のバランスを安定させるために使う漢方薬については症例のなかで説明していきますが、たとえば五臓六腑のバランスが崩れた結果として血圧が上がっている場合は、該当する臓腑の機能を調整して五臓六腑のバランスを安定させることにより、血圧を下げていきます。
では目の前の高血圧症の患者さんは何のバランスがわるいのか。ここでもやはり患者さんの体調について詳細に聞くことがポイントになります。高血圧症は自覚症状が少ない病気ですし、患者さんは上がいくつで下がいくつ、と数字の話ばかりをしたがりますが、それ以外にも患者さんの心身が発する情報を的確につかみ取るようにしてください。
西洋医学の場合は高血圧を人工的に下げる対症療法が中心ですので患者さんは薬物を長期にわたって服用し続けることになります。最近は調子がいいから、と患者さんが自己判断で降圧薬の服用を中断すると当然血圧は元の値まで上昇し、その状態が長く続けば危険が増します。逆に漢方薬は1剤、2剤服用したところで血圧が顕著に下がることはなく、西洋薬のような即効性は期待できません。すでに降圧薬を服用している患者さんに漢方薬を飲んでもらう場合には、必ず自己判断で西洋薬の服用を中止せず、しばらくは漢方薬と併用してもらうように指導してください。