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胃の不調に効く漢方(1)
ストレスや緊張からくる不調に「半夏瀉心湯」「大柴胡湯」

2010/12/28

幸福薬局の店頭に並べられた生薬たち。
(写真:室川イサオ)

 ご存知のように、胃は消化器官のひとつです。口に入れた食べものは食道を通って、胃の中に落とし込まれます。胃では食べたものをいったん貯蔵し、蠕動運動によって歯で噛み砕いた食物をさらに細かく粥状にし、胃液でたんぱく質の消化・分解をします。また強い胃酸によって食物の殺菌もしています。胃は、生きていくために必要なエネルギーや、体を構成・維持するために必要な栄養を飲食物から抽出していく内臓として、漢方でも重視されています。

 このように重要な消化器官ではありますが、外界からの刺激を受けやすいのも胃の特徴です。空腹で空っぽの胃のなかに突然、辛い刺激物や冷たい飲み物が流し込まれたり、強い濃度のアルコールが注ぎ込まれたり、夜中にまで脂っこいものが送り込まれたり、と主(あるじ)のわがままな生活習慣に強制的につきあわされて疲労困ぱいしていることでしょう。おまけに、ろくに噛まずに飲み込むように食べていると、口の中でよく噛んでもらえなかった食べ物がゴロゴロと胃に入ってきますので、消化の負担も募ります。

 同情したくなる無口な臓器ではありますが、それくらいの負担ですぐに音(ね)を上げるほど胃は脆弱ではありません。けっこう丈夫です。とはいえ、つらい負担が慢性的に続くと耐えきれず、痛みなどの症状が出てきます。暴飲暴食や、過度のアルコール、不規則な食生活だけでなく、ストレス、緊張、過労、寝不足でも胃は容易に荒れてしまいます。胃痛や吐き気、むかつき、食欲不振などの胃の不調は、からだの中から発せられる声なき悲鳴です。

 胃の機能は、漢方では五臓の「脾(ひ)」に含まれます。五臓というのは、人体の機能面での捉え方のひとつで、単にモノとしての臓器を指すのではありません。五臓は、中国古来の五行学説にのっとり、人体の機能を五つに分けて捉えたものです。五行学説とは、自然や社会が木・火・土・金・水という五つの性質を持ったものの相互作用により安定しているとする概念です。人体の場合は、肝・心・脾・肺・腎という五臓に分類され、「脾」は、五行の「土(ど)」つまり大地のように命を生み出して育む機能に当たるものです。

 五臓の「脾」は、小腸や大腸の消化吸収機能や代謝機能も広く含みます。生きるために必要なエネルギーや栄養を生み出す臓腑なので、「後天の本(こうてんのもと)」ともいわれます。脾と表裏の関係にある六腑の「胃」と合わせて「脾胃」ということもあります。

 便秘や下痢と関係が深い腸の話は、また別の機会にするとして、今回は胃の症状について勉強していきましょう。とくに胃の大敵である「ストレス」、「暴飲暴食」、「過労」から大事な胃を守る漢方の技についてお話します。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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