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かぜに効く漢方-引き始め編-(1)
かぜの引き始めには「麻黄湯」「葛根湯」「桂枝湯」

2010/11/04

処方日数分の生薬を一つの器に集めました。
(写真:室川イサオ)

 かぜは、もっとも身近な病気の一つです。「かぜなんて病気のうちに入らない」なんて思っている人も少なくないでしょう。しかし、かぜは万病の元。子供や高齢者など、体力のない人がかぜを長引かせると別の大きな病気につながっていくことがあります。普段、元気な人にとっても、発熱や咳といった症状はときとしてつらく、「たかがかぜ」と軽くみてはいけません。できるだけ早く根治しましょう。

 かぜは、同じように生活していても、あるいは同じ職場で働いていても、めったに引かない人もいれば、年に何度もかかってしまう人もいます。かぜの主な原因であるウイルスは、空気感染や接触感染によって、だれの体内にも入ってきます。それなのに、かぜを引きやすい人と引きにくい人がいるのは、個々の免疫力の強さと関係があります。

 かぜに限らず、病気には「原因」があります。何か原因があって病気になり、そして「症状」が出ます。かぜの「原因」は、おもにウイルス感染と、その人の免疫力の低下です。「症状」は、発熱、頭痛、悪寒、鼻水、鼻づまり、咳、のどの痛み、食欲不振、下痢、嘔吐、倦怠感などが上げられます。これら原因と症状のうち、漢方は、病気の原因を解決していこうとする「原因療法」の立場にあります。

 それに対し、西洋医学では、総合感冒薬の処方内容を見れば明らかなように、おもに症状を抑える「対症療法」でかぜの治療に取り掛かります。自然治癒を待つあいだ、かぜの症状を抑えるのが目的です。抗菌剤が処方される場合も多くありますが、ウイルスが原因のかぜに対して、「細菌をターゲットとする抗菌剤は効果がない」と言う医師が増えています。さらに二次感染の予防目的でも抗生物質投与の必要はないことが指摘されています。

 対症療法薬のひとつにエフェドリンがあります。気管支を広げて咳を鎮めます。市販の総合感冒薬をみると、メチルエフェドリン塩酸塩などとして1日60mg程度の量が配合されています。一方、かぜの漢方薬の代表選手「葛根湯(かっこんとう)」にも、その配合生薬の麻黄(まおう)にエフェドリンが含まれていて、こちらの1日量は約20mgと、西洋薬の約3分の1の量に過ぎません。

 そんなに低い用量なのに、どうして葛根湯を飲むと咳が止まるのでしょうか。それは、葛根湯に含まれるほかの生薬との相乗効果があるからです。エフェドリン単味だと鎮咳作用を発揮するにはある程度の量が必要ですが、ほかの生薬との相乗効果で、それより少ない量で鎮咳効果を発揮してくれるのです。科学的な証明はまだされていませんが、漢方処方の生薬の組み合わせは、先人たちの英知の結晶といえるでしょう。

 このように成分をみるだけでも漢方の特徴が出ていると思います。漢方薬は副作用が少ない、漢方薬はからだにやさしい、などとよくいわれますが、このようなこととも関係があるのかもしれません。

 さて先にお話しましたように、漢方は原因療法が基本です。しかし、この麻黄の鎮咳作用のように対症療法も行う場合もあります。漢方で原因療法を「本治(ほんち)」、対症療法を「標治(ひょうち)」といいますが、ひとりひとりの病態や体質によって本治と標治のどちらを優先・重視するかを判断して処方を決めていきます。一般に、かぜのような急性の病気の場合は標治の比重を高めます。患者さんの自覚症状をできるだけ詳しく聞き取るように心がけましょう。

 なお、咳に限らず、かぜの諸症状は、一種の生体防御反応です。咳は気道から肺へと体の奥に侵入しようとするウイルスを体外に追い出すことができます。鼻水は鼻腔に侵入したウイルスなどを流し出します。体温は免疫力を高めるために上がります。例えば白血球は、体温が1度上昇すると約5倍の働きをするといわれています。これらの諸症状を対症療法でむやみに抑えていては、かぜを長引かせ、こじらせることになりかねません。漢方薬で免疫力を高め、かぜを早く治す対策が有効です。

 漢方薬は、ひとりひとりの証(しょう)にあわせて処方します。かぜにも多種多様の証があります。まずは、かぜの引き始めに使う漢方についてお話します。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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