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咳に効く漢方処方(1)
肺に熱がこもった状態の咳に「麻杏甘石湯」

2010/10/19

処方する生薬はまず容器に計り入れます。
(写真:室川イサオ)

 気温が下がり空気が乾燥してくると、咳をする人が増えてきます。ちょっとした咳でも不快なものですが、咳が止まらなくなって咳き込むようになると、それはつらいものです。満員電車やコンサートホールで咳が続けて出ると、まわりの人にまで不快な思いをさせてしまいます。

 熱が出て、喉が痛く、鼻水や鼻づまりなどの症状を伴うならば、かぜを引いているだけかもしれません。しかし咳だけが長く続くようなら、あるいは繰り返し出るようなら、単なるかぜではなく、肺の病気にかかっている可能性もあります。咳は思いのほか体力を消耗します。早めに対策をとりましょう。

 咳は、そもそも、冷たい空気や乾燥した空気、あるいは、ほこり、花粉、細菌、タバコの煙などの異物が肺に入ったときに、それらを肺の外に追いだすために出る反応です。肺への異物の侵入を防ぎ、気道にたまったものを取り去ってくれます。咳は本来、自分の体を守るために出ているわけです。

 異物の侵入以外にも、気管支炎や肺炎、ぜんそく、気管支拡張症など、肺の病気にかかっていても、咳が出ます。痰がたくさん出る場合もありますが、逆に乾燥した空咳(からぜき)がこんこんと出る場合もあります。気道が狭くなって出る咳もあります。花粉症などアレルギー性の咳もよくみられます。

 西洋医学には、気管支拡張剤や吸入ステロイド剤、抗アレルギー剤、去痰剤など、咳を抑える薬が各種あります。いずれも基本的には対症療法ですので、慢性的な咳に悩まされている場合は、同時に体質改善をし、呼吸器を丈夫にして咳を根本的に治していくことも必要でしょう。漢方薬は、こういうとき役に立ちます。

 漢方では、咳を「外感」と「内傷」に分類します。外感の咳は、乾燥した空気や冷えた外気が呼吸器に侵入したときに出る咳で、内傷の咳は、臓腑の機能失調により病邪が肺に至るときに出る咳です。のちほど詳しく説明しますが、体調が悪くなって肺を病んでしまい、咳や痰が慢性的に、繰り返し出る状態です。西洋医学は外因(外感)を重視し、漢方は内因(内傷)も重要視します。

 今回は、かぜを引いたときなどに出る急性の咳だけではなく、長引く咳、繰り返し出る咳についてもお話します。漢方の分類でいう内傷の咳です。漢方薬で過剰な痰の分泌を抑えたり、乾燥した気道を適度に潤したり、気管支の過度の収縮を和らげて気道を広げたりして、咳に悩まされることのない生活をサポートしましょう。

 それでは、私が実際に経験した症例を紹介しながら、どのような漢方薬を選べばよいかを解説していきます。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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