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軟膏塗布を拒否する患者にユマニチュードを実践したら…

2017/05/31
堀籠 淳之

 以前このコラムでも紹介したユマニチュードについて、その素晴らしさを実感する在宅訪問を経験しました。

 定期訪問している100歳を超える女性Aさんの左眼下瞼に丘疹があり、連携先の医師から眼軟膏を処方する旨の連絡がありました。訪問前に、介護している娘さんに電話してみると、薬の塗布に難色を示されました。

 Aさんは高度認知症があり、飲んだ薬を吐き出したり、他職種から「ケアに対する拒否がみられる」などの報告もあったため、ご家族の反応はうなずけるものでした。そこで、そのことを医師に伝えるとともにケア方法について相談し、Aさんが拒否した場合は寝ている間などにそっと患部に付けることを提案し、了承を得ました。介護職の方にも塗ってもらえるように、デイサービスにも軟膏を置くことにしました。

 さて、Aさん宅を訪問し服薬指導を始めると、予想通りご家族の困惑した様子が感じ取れました。しかも、「今、塗ってみましょうか」とご家族に伝えたつもりが、「どうぞ、どうぞ(薬剤師さんが塗ってください)」と逆に促される展開となってしまいました。

 ご家族がやっても拒否されてしまう恐れのある処置を、私がうまくできるはずがないと思いましたが、「この程度でも大丈夫」という塗り方をご家族に見てもらう意味合いもあり、自ら塗ってみようと決意しました。

 ソファに座っているAさんの横で私がご家族に服薬指導をしていると、Aさんが私の方に手を差し出してきたように見えたので、少し握ってみると、手を引っ込めるようなそぶりがありました。

 「あ~、これだとやっぱり私が塗るのは難しいかも…」と思いつつ、Aさんと向き合いました。横から塗るのは難しい状況だったため、私はご本人の正面にひざまづき、「目に塗り薬を塗らせてくださいね」と言いケアを始めました。

 すると、Aさんがまた手を伸ばしてきたので、私はその手を握り話しかけました。

 「お母さん、こんにちは。薬屋ですよ」(薬局・薬剤師では分かりにくいかもと思ったので)

 「目のここ(指さして)のお薬を持ってきたので、塗らせてくださいね」

 「ちょっと塗るだけで、すぐ終わりますからね」

 (塗り終わった後に)「ありがとう」

 緊張して手が震えたものの、何とか塗らせてもらえました。きちんと塗れているか心配だったので、念のため再度塗ろうと思い、「もう1回塗らせてくださいね」と言うと、今度は私の動作を察してAさんがきちんと目を閉じて待ち構えてくれているようでした。それを見たご家族から、「すごいね~」とびっくりされました。

著者プロフィール

堀籠淳之(中央薬局[北海道旭川市])
ほりごめ あつし氏 北海道旭川市生まれ。東京薬科大学卒業後、同大学の大学院に進学し、薬学専攻博士課程を修了。1999年に旭川に戻って父親が経営する中央薬局に就職し、2010年に代表取締役に就任。本人のブログ「旭川の薬剤師道場」も好評連載中。

連載の紹介

堀籠淳之の「日々是精進!薬剤師道場」
博士号を持ち、薬局経営者になった今も、自らを厳しく律して精進に励む“武闘派”薬剤師の堀籠氏。積極的に参加している勉強会や研修会で仕入れたホヤホヤの医薬品情報・医学的知識や、日常の薬局業務の中で感じた疑問、薬剤師や薬業界に対するメッセージなどを熱く綴ります。

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