DI Onlineのロゴ画像

こどもはおとなの縮図ではない

2015/03/12

 貴重な戦力の一人として活躍している昨年入社の新人薬剤師のS君。毎日、一所懸命に学んでいます。自分の勉強だけでなく、「HMG-CoA還元阻害薬の分類と使い分け」や「採用医薬品の代謝別分類」等、薬局で使える資料を作製してくれて助かっています。また、最近では地元薬剤師会主催の実務実習伝達講習会の講師を任せたりもしています。

 そんなS君と入社当初に、こんなやりとりがありました。

適応外だらけの小児薬物療法

私「患者さんが小児の場合、処方監査で用法・用量はどのようにして確認するべきかな?」

S「まだ、頭に数値も入っていませんので添付文書で確認したいと思います」

私「そう答えるのが普通だよね。ところが、実は困った現状なんだ。多くの医療機関で実際に使用されている薬であっても、それらの添付文書にはエビデンスに基づいた小児の用法・用量の記載がなかったり、『小児に対する安全性が確立されていない』と記載されたりしているんだ」

S「えー、そうなんですか?それでは安全で安心な薬の使用ができませんね」

私「小児の用法・用量、および効能・効果が承認されていない『適応外処方』が非常に多いことが大きな問題となっているんだ」

S「そんなに多いのですか? 知りませんでした」

私「以前は、小児科領域で使用されている薬の約75%が小児に対する適応がないとの報告*1もあったほどで、今でも半数以上が適応外のまま使用*2されているんだ。では、適応外使用にはどういう問題があるか、挙げてごらん」

S「エビデンスに基づいた適応がないわけですから、安全上の問題が危惧されます」

私「そうだね。そして十分な情報を製薬メーカーに求めること自体無理があるものね」

S「さらに、保険適応外になってしまったら、患者の経済的負担も増してしまいます」

私「そうだね。そして、もし副作用がおきたら?」

S「医薬品副作用被害救済制度の補償対象からも外れてしまうかもしれませんね」

私「その通りだね。そういう薬はたくさんあって、例えばワルファリンは50年以上前に販売が開始され、小児にも使われていた薬でありながら、長い間小児に対する適応がなく、ごく最近、2011年になって初めて小児用量が添付文書に記載されたんだ」

S「そうだったんですね。かなり時間がかかりましたね」

私「これは全国の小児専門医療施設等の薬剤師からなる研究班による研究成果*3が添付文書改訂のエビデンスとして採用されたからなんだ」

S「素晴らしいです。僕もそんな薬剤師になりたいです」

*1:平成13年度厚生労働科学研究「小児等の特殊患者群に対する医薬品の用法及び用量の確立に関する研究」研究報告書(森田修之・大西鐘壽)
*2:保険適用対象の医薬品リスト
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/topics/110202-01.html 
(厚生労働省の公知申請に係る事前評価が終了した適応外薬の保険適用について)、
適応外の審査
http://www.ssk.or.jp/shinsajoho/teikyojirei/yakuzai.html 
(社会保険診療報酬支払基金の審査情報提供事例)
*3:厚生労働科学研究班「小児薬物療法におけるデータネットワークの実用性と応用可能性に関する研究」
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/03/dl/s0330-10m.pdf


小児薬用量の計算の落とし穴

私「添付文書に記載がない場合、小児薬用量はどうやって計算する?」

S「Augsberger式やVon Harnack表を使います。他にもYoung式とかも教科書で習いました」

私「その中で、Von Harnack表は実用的でよく使われるけれど、いずれにしても、それらの成人量からの換算式は理論的背景に乏しく、根拠に基づいた薬用量の設定*4が求められているんだ」

私「代謝を例にとってみよう。新生児期の体重あたりの薬物代謝能力は高いかな? 低いかな?」

S「もちろん、低いです」

私「そうだね、では乳児期ではどうだろう?」

S「やはり、低いと思います」

私「ところが乳児期では成人域に達しているんだ。そして、小児期には成人を超えてしまうんだよ。当然、薬によって代謝は異なるけれどね」

S「なるほど、薬によっては体重あたりの用量が成人量を超える場合もあるってことですね」

私「フェノバルビタールの薬用量*5(抗けいれん)はその代表例だから、あとで調べておくといいよ」

*4:アロメトリー法、生理的薬物動態理論に基づくアプローチ、母集団薬物動態利用などがある。

著者プロフィール

平野 道夫(まい薬局富士見店〔埼玉県富士見市〕管理薬剤師、武道家)ひらの みちお氏 1959年生まれ。城西大学薬学部卒業。埼玉県薬剤師会支部で20年以上にわたって学術部理事を務め、薬剤師や薬学生の教育に尽力。認定実務実習指導薬剤師。

連載の紹介

平野道夫の「薬局手習指南所」
毎年、実務実習生を受け入れるとともに、地区薬剤師会の集合研修の講師として地域保健、在宅医療、災害時医療、セルフメディケーション、OTC薬、薬局製剤などに関する講義を担当。「街の薬局薬剤師は、薬剤師の本質を再考して原点回帰すべき」と唱える平野氏が、薬学生や若手薬剤師への教育・指導を通じて感じたこと、考えたことをつづります。

この記事を読んでいる人におすすめ