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健保連の提言はピンチ?それともチャンス?

2019/09/03

 物心がついた頃から、当時は何となく、しかし最近では意識的に心掛けていることは「ピンチはチャンス」という考え方です。色々な危機が迫ってくると、「あぁ、もうだめだ」と弱音を吐きたくなるものですが、そんな時に心が折れないようにするためにも、「これは、チャンスかもしれない」と心を切り替えて物事に取り組むことが大切だと考えてきました。

 8月23日に健康保険組合連合会(健保連)から出された「2020年度診療報酬改定に向けた政策提言」(関連記事)を見ると、改めて、「ピンチはチャンス」という考え方が大切だと感じましたので、読者の皆様とシェアしたいと思います。

 政策提言を読んで、まず驚いたのは、提言された5項目のうち、フォーミュラリーの導入リフィル処方箋の導入調剤報酬の見直し花粉症治療薬の保険適用範囲の変更――の4項目が、薬、そして調剤報酬に関わるものだったことです。

 医療費の適正化が喫緊の課題となっている今、支払い側は、医療費総額の2割近くを占めるようになった調剤医療費を見直す効果が大きいと考えたのではないかと思います。特に、5万9000軒の薬局で17万人を超える薬局薬剤師が活動する調剤報酬については、この10年近くの間に様々な議論がありました。

 今回は、法律や制度が決まったり変わったりしたわけではなく、単に支払い側が提言したという位置付けではありますが、「もうリフィルにしちゃえばいいんだよ!」とか「調剤報酬を抜本的に変えるべきだ!」などと飲み屋や講演会で話をしているのとは、わけが違います。このことを、「ピンチはチャンス」という視点で考えてみたいと思います。

 まずは「ピンチ」から考えてみます。これは、調剤報酬の見直しということになるでしょう。以前から、財務省や内閣府の審議会で調剤料の見直しについては言及されていましたが、今回の健保連の提言では調剤基本料と薬剤服用歴管理指導料の見直しが挙げられています。

 調剤基本料は現在、処方箋枚数と集中率で区分されており、いわゆる大型門前薬局が高収益であることへの対策として、中規模以下の薬局や、特定の医療機関に依存しない薬局(制度上、医療モールも含められてきました)については、高い調剤基本料が設定されてきました。それを、現在の最も低い点数に統一して、地域医療に対する貢献の実績に応じた加算をより評価すべきであると提言しています。

 また、薬剤服用歴管理指導料を一律に算定している現状(当薬局もそうですが)を見直し、文字通り、薬歴の一元的かつ継続的な管理・指導が必要な患者に限り算定すべきであるとし、算定するのであれば処方元の医療機関への服薬情報提供などを要件とすべきではないかと主張しています。

 これらの根底には、「対物業務から対人業務へのシフト」を進めるべきだという考えがあるのだと思います。とはいえ、調剤基本料の低位一本化や、薬剤服用歴管理指導料の一律算定の禁止などが、そのままでないにせよ実現するとなれば、調剤料の引き下げと相まって、いわゆる「調剤薬局経営」に及ぼす影響は甚大だと思います。

 そしてフォーミュラリーやリフィルは、医師、患者との調整が必要であり、薬剤師の業務をより煩雑にする可能性があります。経営的に見ると、効率が落ちるように感じられます。

 さらには、花粉症治療薬の保険適用範囲の変更は、処方箋を持って来局する外来患者数の減少につながる可能性があります。OTC薬のニーズが高まるかもしれませんが、価格に勝るドラッグストアや大型量販店との奪い合いになるでしょうから、そのまま薬局の売り上げが補填されるわけでもなし――。まさに、暗たんたる気持ちになる方も多いでしょう。

 このように薬局の経営環境の厳しさが増す昨今のトレンドを考えると、過去に経験したことのないピンチが到来したということができるでしょう。「なんだ、薬局いじめか!」という怒りとともに、「あぁ、もうだめだ……」という弱音が口をつくのも、無理はないのかもしれません。

 では、一体、どこが「チャンス」なのでしょうか。

著者プロフィール

狭間研至(ファルメディコ株式会社[大阪市北区]代表取締役、思温病院[大阪市西成区]理事長)
はざま けんじ氏。薬局の息子として育ち、大阪大学医学部を卒業して外科医に。2004年、同大学大学院医学系研究科臓器制御外科(博士課程)修了と同時に、実家の薬局を継承。薬局経営を続けながら、医師としては在宅療養診療所勤務を経て、17年1月より思温病院(大阪市西成区)の理事長に就任。薬剤師生涯教育、薬学教育にも積極的に取り組んでいる。

連載の紹介

狭間研至の「Road to 薬剤師3.0」
「日本の地域医療をこれまで以上に機能させるには、薬局・薬剤師が第3世代(=3.0)に進化することが不可欠」という持論を持つ狭間氏。薬局経営者として、時に臨床医として、多忙ながらも充実した日々を送る狭間氏が、日常のちょっとした場面を切り取りながら、次世代の薬局や薬剤師のあり方を発信します。

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