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「没頭」という落とし穴

2015/12/15

 「この数年、急速に変化しつつある薬局業界」――こんなフレーズ、もう聞き飽きたと思いませんか?私も随分いろいろなところでこんな風にお話したり、書いたりしてきました。

 思い返すと、医薬分業率がこんなに高まると30年前に想像できたでしょうか? また後発医薬品がこんなに増えるなんて20年前に想像できたでしょうか? さらには薬学教育の中でバイタルサインやフィジカルアセスメントについて教えるようになるなんて、10年前に想像できたでしょうか?

 知らないうちに、私たちを取り巻く環境は大きく変わっています。そして、今、薬局を取り巻く環境は本当に(!)大きく変動しようとしています。その理由は2つあります。1つは、医療経済的に現在の在り方を大きく変えなければならなくなっていること。そして、もう1つは、薬学教育が6年制に移行したことです。

 超高齢社会に突入し、生産者人口が少なくなっていく国で、国民皆保険制度の在り方を抜本的に変える必要があることは明らかです。また、薬学教育が変わった以上、その教育を受けて誕生する薬剤師の在り方も変わることは当然だからです。

 しかし、どんなにこういう話を講演会で聞いたり、本で読んだりしても、現場では「自分には、あまり関係がない話」として、その場限りのちょっとした話題になってしまうことが少なくないように感じます。

 特に、この2~3年は、薬局のオーナーさんや経営陣とお話しすると、自分たちの感じる危機感と現場の薬剤師の実感との差に大きな乖離があることを危惧されていることが多いのです。「自分たちは、本当に変わらなくてはいけないと危機感を募らせているのに、どうも、現場の薬剤師たちにその感覚が伝わらないんです」と。

 私はその原因は、現場の薬剤師が毎日の業務に「没頭」していることに、さらには「業務に熱心に取り組んで、何が悪いんだ!?」と反射的に感じてしまうことにあると思っています。

 現在、大部分の薬局薬剤師が取り組んでいる仕事は、患者さんが薬局に持って来られた処方箋を応需し、内容を監査し、疑義があれば適正に照会した後、正確・迅速に調製し、分かりやすい服薬指導とともにお渡しし、これら一連の行為について可及的速やかに薬歴に記載するというものです。

 これらのことは、患者さんにとっては治療に欠かせない薬剤を提供するということになりますし、薬の使い方や効能効果、副作用などをきちんと説明することは患者にとって重要なことです。何より一連の行為をきちんと行うことは、法律的にも道義的にも必要であり、さらには収入を得るためにも不可欠です。

 もちろん調剤過誤はあってはいけません。間違った説明はしてはいけません。調剤報酬は適正に請求しなくてはなりません。つまり、一連の行為には緊張も、勉強も、モラルも求められます。やることが山積した、大変な仕事だということになるでしょう。まさに、気を散らすことなく目の前のことに「没頭」する必要があるのです。

 しかし、「没頭」には、ただ1つ危険な面があります。それは「周囲が見えなくなる」ということ、違う言い方をすれば「周囲を見ずに済む」ということです。毎日、店頭に訪れる患者さんに「没頭」していれば、自分の周りに起こる変化を見聞きしたり、考えたりする必要はありません。

 その仕事が単なる単純作業ではなく、現在の外来調剤業務のように知識や技術や様々なマネジメントを必要とするような場合には、なおさら「没頭」しやすくなりますが、同時に、周囲の環境変化や現在のトレンドなどについては、ほとんど考えられなくなるのです。

著者プロフィール

狭間研至(ファルメディコ株式会社[大阪市北区]代表取締役、思温病院[大阪市西成区]理事長)
はざま けんじ氏。薬局の息子として育ち、大阪大学医学部を卒業して外科医に。2004年、同大学大学院医学系研究科臓器制御外科(博士課程)修了と同時に、実家の薬局を継承。薬局経営を続けながら、医師としては在宅療養診療所勤務を経て、17年1月より思温病院(大阪市西成区)の理事長に就任。薬剤師生涯教育、薬学教育にも積極的に取り組んでいる。

連載の紹介

狭間研至の「Road to 薬剤師3.0」
「日本の地域医療をこれまで以上に機能させるには、薬局・薬剤師が第3世代(=3.0)に進化することが不可欠」という持論を持つ狭間氏。薬局経営者として、時に臨床医として、多忙ながらも充実した日々を送る狭間氏が、日常のちょっとした場面を切り取りながら、次世代の薬局や薬剤師のあり方を発信します。

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