この数年、薬学生を対象に講義の一環としてお話させていただくことがよくあります。1回の講義のこともあれば、シリーズでお話することもあります。年次も様々で、1年生のときもあれば、4年生、5年生を対象とすることもあります。正式な教員ではない私が、そのようなチャンスをいただけることは、本当にありがたいことだと思い、毎回いそいそと大学に出向いています。
私自身が医学生だった頃は、もう四半世紀も前のことになってしまいましたが、いまだに印象に残っている講義はありますし、振り返ってみて、その後の私の人生を決めたと感じる講義もあります。
先日、とある大学で1年生に講義する機会がありました。1年生というと、つい最近まで高校生だったわけで、本当に若々しく、正直なところジェネレーションギャップも感じます。若さ特有のパワーに圧倒されないように、私の話にも自然と熱が入ります。
講義終了後、ある女子学生が声を掛けてくれました。話を聞くと、何でも、数年前に私が出たテレビを見て、薬学部に行こうと思ったとのこと。もともと理系の勉強が好きだったそうですが、在宅医療の分野で薬剤師が知識を活かして、直接、患者さんの役に立つことができることを知り、薬学部に進んだそうです。その私の講義を受けることになり驚いたそうです。
講義後のバタバタした時間でしたので、あまり話ができず、名刺をお渡しして「何かあったら連絡してね」と言ってその場は別れました。
すると数日後、本当にメールが来ました。
そのメールには、講義を受けた感想とともに、薬局や薬剤師と患者さんの距離感が遠いことや、患者さんは何かあれば結局は医師に行くのではないかと悩んでいると書かれていました。
最近の学生の積極性に驚きつつも、悩みを打ち明けられたわけですから、これは答えないと!と返事を書きました。
おはようございます。
先日はありがとうございました。
薬局や薬剤師は今、世間にも薬剤師自身にも誤解されています。薬をもらう場所、説明してくれる人だと思っているのです。
だとすると、そこに第1に駆け込むことにはなりません。なぜなら、問題を解決してくれるのは基本的に医師になるからです。
もちろん、医師は問題を解決しますが、医師の専門性や、今後の人口構造などを考えると、医師は医師でしかできない部分に特化していかなくてはなりません。それが、外科的治療や侵襲的な治療、そして、それらの基になる診断行為です。
病名が決まれば、治療法は定まっています。そして、そのほとんどが薬物治療になります。生活習慣病や癌手術後の抗癌剤治療など薬物治療は多様化し、また、複雑化しています。
高齢化もあって、多くの薬を併用したり、肝臓や腎臓の機能が低下していたりして相互作用や副作用が起こりやすくなっています。また、認知機能の低下もあって大量の残薬が発生したりしているわけです。いわゆるPolypharmacyと呼ばれる状況は、医師が全てを診るという現状が破綻しつつある状態を現しているのではないかと思います。
そこで、薬剤師の在り方を、3つの観点からもう一度考え直してみようと講義では述べました。
1つは、法的にどうかということ。薬剤師法25条の2の指導義務の話にも触れましたが、やはり出すだけではだめで、出した後を見なければなりません。
もう1つは、薬剤師の専門性にかかる部分。薬学部で学ぶのは、基礎薬学をベースに、薬が体内に入った後、どうなるかということがメインです。それらの知識を活かすのは、薬を飲むまでではなく、飲んだ後を見る時です。
そして、最後は、薬剤師を目指したきっかけ、理由です。薬剤師として、薬というモノを扱いたかったわけではなく、患者さんを良くしたいというようなヒトを対象とした仕事をしたいのではないかということです。
これから、学ばれることは、大変大切な部分を学びます。是非、夢と希望を持ってがんばってください!