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安全管理の次のターゲットは「副作用」と「感染」

2013/07/03

ビルの中を通り抜ける阪神高速道路 ゲートタワービル(大阪市福島区) 2010年11月27日撮影 

 「ヒューマンエラー(Human Error)」という用語が注目されるようになったきっかけは、1999年に発表された米国医学研究所(Institute of Medicine)の「To Err is Human : Building a Safer Health System」という報告書です。日本語訳は『人は誰でも間違える:より安全な医療システムを目指して』という書名で、2000年11月に出版されました。

 本書の総論には「医療過誤による死亡者数(推定4万4000人)は死亡順位の8番目に位置する。この医療過誤による年間死亡者数は、自動車事故(4万3458人)による死亡者数を上回る」と記述されています。これを裏付けるような形で、2000年に、関西の大学病院で蒸留水の代わりに間違えて消毒用エタノールを加湿器に加えて患者が死亡、関東の大学病院で経管投与の薬剤を誤って静脈内に投与して小児患者が死亡、といった事故報道が相次ぎました。

 振り返れば、2000年以降の医療安全のキーワードは「ヒューマンエラー」でした。試行錯誤ながら、2010年までの10年間で「ヒューマンエラー」の主な誘因の抽出と対策、そして、エラー防止のための基本ルールの検討が進みました。

 しかし、相変わらず同じようなエラーが発生しています。その主な原因として「基本ルールを知らない」ことと「基本ルールを守らない」ことの2点が挙げられます。 2010年以降、「ヒューマンエラー」防止のための取り組みは、「基本ルール」の遵守をいかに実現するかという第2段階、つまり“教育の段階”に入ったと見ています。

 人間が存在する限り、「ヒューマンエラー」はなくなりません。そこで「ヒューマンエラー」だけではなく、2000年代には“脇役”の地位に甘んじていた2つの重要なターゲットに注目する必要があります。そのターゲットは「薬物有害反応(Adverse Drug Reaction、以下、副作用)」と「感染(Infection)」です。うち「副作用」について、安全管理上どのような視点が必要かについて説明します。

 「副作用」は「未知なもの」と「既知なもの」とに大きく分けられます。「既知のもの」は医薬品添付文書に書かれているので、予想される危険からの回避が求められます。ところが2010年以降、重要な状況の変化がありました。それは、「承認条件」付きの新薬の発売が増えていることと、「公知申請」(前編および後編)の新しい解釈により、既承認薬については国内での臨床試験なしに適応拡大が行われていることです。

 これらはともに、ドラックラグ(Drug Lag、新薬承認の遅延)解消目的のための対策であり、治療薬を待つ患者にとっては有益である一方で、日本人の臨床試験データが少ないまま承認されるという問題点を抱えています。つまり、「承認条件」付き新医薬品や「公知申請」による適応拡大の承認を受けた医薬品は、日本人の安全性データが十分でありません。また、たとえ日本人の臨床試験データがあったとしても、それは治験という限られた条件下で得られたものであり、製造販売後に予期しない副作用が発現することが少なくありません。特に新薬の使用に当たっては、安全性に対する十分な監視が必要です。メリハリをつける意味で、リスク度評価に基づく患者の継続的な経過観察(自覚症状と他覚所見)を通して、薬物治療の有効性の評価とともに、未知の副作用に対して十分な監視を行うことが求められます。

著者プロフィール

古川裕之(医療安全システムデザイナー)ふるかわ ひろゆき氏◎雪国(福井県大野市)の生まれ育ちなのに、性格はなぜかラテン系。1975年金沢大学薬学部卒業後、同大医学部附属病院、臨床試験管理センターを経て、2010年より山口大学医学部附属病院薬剤部長。18年に退職し、現在はフリーランスの「医療安全システムデザイナー」として活躍中。趣味は、写真撮影とブラジル音楽のバンド。薬学博士。

連載の紹介

古川裕之の「STOP!メディケーションエラー」
調剤する人は調剤エラーをする。調剤しない人は調剤エラーをしない。仕事をする限り、エラーから逃れることはできませんが、エラー事例から学ぶことで、重大なエラーを避けることはできます。「メディケーションエラー」防止に向けた10年以上の取り組みを通して学んだことを、分かりやすい具体例を示しながら紹介します。
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