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麻薬依存症になった医師の話

2019/06/25

 カナダでは、最近マリファナが合法になりましたが、一方で、麻薬の過量摂取による死亡が社会的な問題となっており、一向に減る傾向がありません。私は薬剤師としてもう少し危機感を高めようと、ある研修を受けました。この研修は「Opioid Use Disorder Treatment Course」というもので、麻薬依存症の治療やリハビリの方法について学べるほか、元患者とのスカイプによるやり取りなどを通して、麻薬依存症の患者への先入観や偏見をなくすための知識を得ることができます。

 スカイプを使った研修では、患者がどのようにして麻薬依存症という恐ろしい負のスパイラルに入ってしまったのかといった体験談を聞き、麻薬依存症の正しい知識について学ぶことができました。今回は、この研修で得た、素晴らしい出会いを皆さんに紹介したいと思います。

 麻薬依存症患者といえば皆さん、どのような人を思い浮かべますか? 不良、ヤクザ、芸能人……? 皆さん想像は様々でしょう。私もその1人でした。麻薬依存症患者を比較的多く担当したことがある私でさえ、「依存症になったいきさつは恐らく、ストリートドラッグでしょう」と根拠のない偏見を持っていました。

 この研修では1人の医師がスカイプの画面に登場しました。私たちは、この医師が麻薬依存症について講義するのだろうと思って画面を見たのですが、実はその医師は元麻薬依存症患者でした。長いリハビリ生活の経験があり、麻薬処方箋を違法に発行した罪で刑務所に入った経験もあるこの医師は、研修で自分の体験を話してくれたのです。

 彼の名前はDr.Gebien。もともと救命救急(ER)のドクターで、持病の腰痛を鎮痛薬でごまかしながら、ERの過酷な業務を何とかこなしていました。しかしそのうち、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)などの鎮痛薬では十分な効果が得られなくなり、麻薬性鎮痛薬を服用し始めました。そして、服用開始からわずか6カ月で、麻薬性鎮痛薬なしでは通常の医師業務ができないほど、体と脳が侵されてしまったのです。

 このように、麻薬の恐ろしさを知っている医師でさえ、簡単に中毒になってしまうのです。麻薬にはたやすく手を付けてはいけないし、医療用麻薬であっても、たやすく処方や交付をしてはいけないのです。

著者プロフィール

マイルバガナム恵美(カナダ・オタワ在住)
まいるばがなむえみ氏。1995年神戸薬科大学卒業、2004年まで薬局勤務。05年にカナダで薬剤師免許を取得後、薬局勤務。12〜15年は日本で薬局に勤務し、15年夏にカナダに戻る。カナダ糖尿病教育者。15年に『カナダで薬剤師になる!』をアマゾンKindleストアで出版。

連載の紹介

マイルバガナム恵美の「日本とカナダの薬局見聞録」
日本の薬局で働いていたときにカナダ人留学生と出会って結婚したマイルバガナム氏。ご主人とともにカナダに渡り、薬剤師免許を取得してカナダの薬局に勤務していましたが、ご主人の仕事の関係で一時帰国し、日本で薬剤師として働いていました。現在はカナダに戻り、両国の薬局の勤務経験を持つ同氏が、カナダでの免許取得の苦労話や、カナダの薬局での体験談や医療事情などをつづります。

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