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宝島社×日経DIコラボ企画
知識に裏打ちされた薬剤師の発言
第2話:お節介な薬剤師の受診勧奨(12)

2021/04/23

『このミス』大賞シリーズ 『薬も過ぎれば毒となる 薬剤師・毒島花織の名推理』(宝島社文庫)

 中野さんの状態を考えるに、睡眠薬を飲まされたことを疑うよりも、病気であることを疑うべきだと思います、と毒島さんは言葉を続けた。
 しかし中野さんは納得しない。

「そんなのただの知識でしょう。睡眠薬を実際に飲んだこともないくせに適当なことを言わないでよ」と言い返す。

 すると毒島さんは、「飲んだことはあります」と言葉を返した。

「昔、北海道の調剤薬局で仕事をしていたときに、気候や生活習慣の違いで眠れなくなったことがあって、そのときにせっかくだからと思って、色んな睡眠薬を試してみました。ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、バルビツール酸系、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬と、マルシオンからダルビートまで四種類の薬をすべて飲んだことがあります。でも中野さんが悩まされたような状態になったことは一度だってありません」

 中野さんは怯んだような顔になる。
 知識に裏打ちされた毒島さんの発言を前にして、お得意の持論では太刀打ちできないと気づいたようだった。

「でも、会社の定期健康診断では何も異常はなかったのよ」
「定期健康診断ですべての病気が判明するわけではありません。ナルコレプシーという病気をご存知ですか。別名、眠り病といって、日中に強烈な眠気に襲われて眠り込んでしまう病気です。一度の睡眠は二十分から三十分で、目覚めた後はすっきりするという症例も、中野さんの状態に似ています」

 さきほどの質問は、その病気の症例に関するものです、と毒島さんはスマートフォンの画面を中野さんに見せた。

連載の紹介

薬も過ぎれば毒となる 薬剤師・毒島花織の名推理
クールで謎めいた薬剤師・毒島(ぶすじま)花織が薬と事件の真相を解き明かす、宝島社文庫の話題の小説が、日経ドラッグインフォメーションOnlineに登場。作者は、2008年「毒殺魔の教室」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞した塔山郁(とうやまかおる)氏。20年5月に続編となる「甲の薬は乙の毒 薬剤師・毒島花織の名推理」が発売。

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