
『このミス』大賞シリーズ 『薬も過ぎれば毒となる 薬剤師・毒島花織の名推理』(宝島社文庫)
フロントの仕事をするにあたってクレーム対応は不可欠だ。
通された部屋が写真と違う、係の手際が悪い、掃除が行き届いていない、食事が冷たい等、その内容は多岐にわたるが、対応するに当たって最も厄介なのは、部屋の私物がなくなったというクレームだろう。
水尾爽太がその日に受けたクレームもその典型的なケースと言えた。
部屋に置いた子供の塗り薬がなくなったというのだ。
クレームの主は植木美和子という女性だった。新潟から小学五年生の娘・茜と来て、ツインルームに泊まっていた。
金曜と土曜の二連泊。土曜日の午後三時過ぎに外出から戻って、それに気づいたとのことだった。
「申し訳ありません。すぐに確認に参ります」