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【最終回】
ポリファーマシーへの関わりと方法論としてのEBM

2017/02/21

 本コラム『これで解決!ポリファーマシー』は、今回で最終回となります。約1年にわたる連載にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。このコラムはEBMの方法論を症例ベースで解説した連載『症例から学ぶ 薬剤師のためのEBM』の姉妹編として、2016年2月から連載を開始しました。総論とケースの2部構成で連載し、一部の記事は『ポリファーマシー解決! 虎の巻』 として、16年秋に書籍化しました。

EBMという行動スタイルを基盤に据える
 ポリファーマシーが注目を集め始めたと僕が感じたのは2012年頃だった思います。その当時はやはり、「多剤併用=悪」、故に「介入し減薬することこそ正義」とのイメージが強かったように思います。潜在的不適切処方をスクリーニングするクライテリアなどを用いて、処方内容を適正化することこそがこれからの薬剤師の重要な任務である、といった空気が生まれつつあったことは明確には否定できないでしょう。

 時は流れて、2014年、ある論文との出合いが、ポリファーマシーへの関わりを再考せねばならない、と考えるきっかけとなりました。

 医学論文の日本語要約を提供しているCMEC(Community Medicine Evidence Center)というウェブサイトがあって、僕自身も原稿を書いたりしているのですが、たまたま日本語要約の作成を担当することになったのが、次の論文でした。

 Frankenthal D,et al.Intervention with the screening tool of older persons potentially inappropriate prescriptions/screening tool to alert doctors to right treatment criteria in elderly residents of a chronic geriatric facility: a randomized clinical trial. J Am Geriatr Soc.2014;62:1658-65. PMID:25243680

 この論文は、過去に本連載でも紹介しました。簡単に内容をまとめると、施設居住高齢者359 人を対象に、処方された薬剤について薬剤師がレビューを行い、STOPP/STARTクライテリアに基づき、主治医へ報告する介入群と、通常の薬物療法群を比較したランダム化比較試験です。その結果、12カ月後の使用薬剤数やコストは、通常薬物療法群に比べて介入群で有意に減りましたが、一方で、この研究では、転倒回数や入院回数、QOLに明確な差は見られませんでした。

 つまり、薬剤師がクライテリアを積極的に活用しても、臨床アウトカムの改善はほとんど期待できないという、個人的にはかなり絶望的なものでした(この研究結果に対する僕の解釈への批判もいくつか受けていますが、それについては書籍『ポリファーマシー解決! 虎の巻』の中でお答えしています)。

 後に、Scottらによるdeprescribingの実践プロトコルに関する論文や、薬剤関連問題の多くはクライテリアでは同定できない、というコホート研究が報告され、腑に落ちる部分もありました。

 Scott IA.et.al.Reducing inappropriate polypharmacy:the process of deprescribing.JAMA Intern Med.2015;175:827-34. PMID:25798731

 Verdoorn S.et.al. Majority of drug-related problems identified during medication review are not associated with STOPP/START criteria. Eur J Clin Pharmacol.2015;71:1255-62. PMID:26249851

 クライテリアはあくまで参考にすべき情報の1つにすぎず、ポリファーマシーとの関わりにおいて、基盤となるのはやはりEBM(evidence-based medicine)だと、次第に僕は考えるようになりました。

 ポリファーマシー(Polypharmacy)という言葉が使われた論文情報はPubMedを調べる限り、1950年代には既に存在します。語源について詳しくは知りませんが、ポリファーマシーという言葉に適切な日本語訳がないことからも明らかなように、日本ではなく欧米で生まれた概念であるように思います。

 そして、欧米の医療従事者は、英語で書かれた臨床医学論文を日常的に読める環境にいます。実際に読んでいるかどうかは別として、僕のように必死にグーグル翻訳で和訳しながら論文を読むのではなく、母国語(あるいは文法的にそれに近い言語)で論文を読むことができるわけです。

 つまり、ポリファーマシーという概念が生まれた欧米では、「EBMの実践」という基盤が、我が国の薬剤師よりもずっとあって(少なくとも日本より身近に英語論文があるように思います)、そういったことを前提にした上でのクライテリアなわけです。

 日本では、臨床医学に関する論文情報を踏まえる、という行動をすっ飛ばしてクライテリアだけが独り歩きしている印象はありました。我が国にとってはEBMもポリファーマシーもある意味では“輸入”の概念なので、基本的には日本人にとって分かりやすい部分だけが選択的に取り出されて、それが広まっていくという側面はあるのでしょう。輸入プロセスの場合、オリジナル概念との相違が生じてしまうことは言語学上、致し方ないことではあります。

著者プロフィール

青島周一(病院勤務薬剤師、「薬剤師のジャーナルクラブ」共同主宰)
あおしま しゅういち氏 2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て、12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBMスタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録をブログ「地域医療の見え方」などに書き留めている。

連載の紹介

青島周一の「これで解決!ポリファーマシー」
近年、医療現場では多剤併用(ポリファーマシー)が問題となっています。本連載ではポリファーマシーの具体的な症例を提示しながら、薬学的・医学的な問題点を整理するプロセスや、医療従事者と患者が抱いている薬物療法へのイメージのギャップをどう埋めるかについて考えていきます。論文の読み方は、「症例から学ぶ薬剤師のためのEBM」を参照してください。

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