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ケース14 対症的薬剤の減処方をどう提案する?
術後の食道炎症状に悩まされる74歳男性患者

2016/12/27
青島 周一

 今回の症例は74歳男性の野口修二さん(仮名)です。半年ほど前に、大学病院で食道癌の手術を受け、食道の一部を切除しました。そのため声が出せず、会話ができなくなってしまいましたが、術後の経過は良好で、日常生活もほぼ1人でこなせます。現在は、自宅近くのクリニックに通院しており、処方薬は大学病院の退院時に処方された薬剤をそのまま継続しています。

CASE#14 74歳男性、野口修二さん(仮名)

既往歴
65歳:高血圧
74歳:食道癌手術(非開胸食道抜去術)


検査データ
収縮期血圧145mmHg


処方内容
(1)
ミカルディス錠40mg       1回1錠(1日1錠)
タケプロンOD錠30         1回1錠(1日1錠)
          1日1回  朝食後   28日分
(2)
セレコックス錠200mg        1回1錠(1日2錠)
          1日2回  朝夕食後  28日分
(3)
【般】スルピリド錠50mg     1回1錠(1日3錠)
ビオフェルミン配合散         1回1g(1日3g)
ビソルボン錠4mg          1回1錠(1日3回)
          1日3回 朝昼夕食後 28日分

 来局時、野口さんから筆談で次のような訴えがありました。

スルピリドは術後に食欲が低下した際に処方されたのだが、最近この薬を飲むと、なんとなく元気がなくなる。できれば飲みたくない。

 野口さんに処方されている薬剤のうちミカルディス(一般名テルミサルタン)以外は、いわゆる「対症的薬剤」です。これらの継続要否を判断するに当たっては、症状に対する有効性がどの程度得られているのかをしっかり把握する必要があります。つまり、「予防的薬剤」以上に、患者さんの薬へ関心、思いに配慮が必要となるのです(予防的薬剤・対症的薬剤についてはケース11参照。もちろん、予防的薬剤にこのような配慮が不要というわけではありません)。

 少なくとも、薬剤効果をどの程度実感しているかどうかについて、患者さん本人の思いを知っておく必要があります。患者さんが「よく効いている」と実感している薬剤を、医療者の一方的な価値観で否定することは現実的には困難です。

 現在処方されている薬剤に対する野口さんの価値観・思いを、スルピリド以外の薬剤も含めて確認してみると、以下のようになりました。

薬剤名期待される効果野口さんの薬に対する価値観・思い
タケプロンOD錠逆流症状の緩和逆流症状は相変わらず。
術後からあまり変わらないように思う。
逆流してくるのは酸っぱい味のものではなく苦いもの。
セレコックス錠鎮痛作用今現在、特に体が痛むということはない。
処方された理由をよく覚えていない。
スルピリド錠食欲増進(効能効果として保険適用なし)術後に食欲が低下した時に出された薬。
今は食欲もあるので、必要なければ服用したくない
(服用すると、元気が出なくなる気がする)。
ビオフェルミン配合散整腸作用これを飲んでいるとお腹の調子は良いように思う。
ビソルボン錠去痰作用痰が絡むこともあるが、薬を飲んでいるおかげで
まずまず調子が良い。
※)プロトンポンプ阻害薬(PPI)は消化性潰瘍の予防的薬剤として用いられることもあるが、本稿では逆流症状への対症的薬剤と考えている。

 

 上記薬剤の中でもセレコックス(セレコキシブ)、タケプロン(ランソプラゾール)、スルピリドの3剤は継続するベネフィットが少ないかもしれません。食道癌術後の胃食道逆流症にはPPIが無効な例も多く、また野口さんは「苦い味のものが逆流している」と話しており、逆流しているのが本当に胃酸なのかという疑問があります。食道癌の術後であり、迷走神経が切除されている可能性は高く、その場合、基本的には胃酸分泌が抑制され、胃内の酸度はそれほど高くありません。逆流しているのは胃酸ではなく、十二指腸内容物(膵液や胆汁)の可能性が高いとも考えられるのです。

(Am J Gastroenterol.2002;9:1647-52. PMID:12135013)
(Gut.1991;32:1090-2. PMID:1955159)

 改めて、今回のケースにおいて気になるポイントを整理してみます。

薬物治療、ここが気になる!
・セレコックスの処方意図がよく分からない。
・効果を実感できていないにもかかわらず、タケプロンが高用量で継続投与されている。セレコックスによる消化器系有害事象の予防目的で処方されているのかもしれないが、そもそもセレコックスの処方意図が不明である。
・スルピリドの継続の必要性がよく分からない。

 では、今回のケースを考える上で押さえておきたいエビデンスを、整理していきましょう。

著者プロフィール

青島周一(病院勤務薬剤師、「薬剤師のジャーナルクラブ」共同主宰)
あおしま しゅういち氏 2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て、12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBMスタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録をブログ「地域医療の見え方」などに書き留めている。

連載の紹介

青島周一の「これで解決!ポリファーマシー」
近年、医療現場では多剤併用(ポリファーマシー)が問題となっています。本連載ではポリファーマシーの具体的な症例を提示しながら、薬学的・医学的な問題点を整理するプロセスや、医療従事者と患者が抱いている薬物療法へのイメージのギャップをどう埋めるかについて考えていきます。論文の読み方は、「症例から学ぶ薬剤師のためのEBM」を参照してください。

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