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ケース13 「アンダーユーズ」と処方追加提案
心不全による下肢浮腫に悩む87歳女性への対応

2016/12/06

 今回の症例は在宅療養中の87歳女性、井崎はつさん(仮名)です。以前通院していた総合病院の循環器内科で左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)と診断され、現在は慢性心不全の治療としてエナラプリル(一般名エナラプリルマレイン酸塩)とラシックス(フロセミド)を服用しています。昨年より下肢の浮腫が悪化し、歩行困難となりました。その後も状態はあまり変わらずに車椅子生活が続き、最近ではほぼ寝たきりとなっています。意思疎通は比較的良好で、耳元で大きな声を出せば会話は十分に可能です。

CASE#13 87歳女性、井崎はつさん(仮名)

既往歴
40代:高血圧症
60代:狭心症
80代:慢性心不全(左室駆出率が低下した心不全[HFrEF])

検査データ
収縮期血圧130mmHg前後、脈拍90回/分
血清カリウム値3.3mEq/L

処方内容
(1)
【般】エナラプリルマレイン酸塩錠5mg    1回1錠(1日1錠)
 ラシックス錠20mg            1回1錠(1日1錠)
          1日1回  朝食後   28日分
(2)
ニトロールRカプセル20mg  1回1カプセル(1日2カプセル)
マグミット錠250mg        1回1錠(1日2錠)
          1日2回  朝夕食後  28日分
(3)
【般】ブロチゾラム錠0.25mg    1回1錠(1日1錠)
プルゼニド錠12mg         1回2錠(1日2錠)
          1日1回  就寝前   28日分

 処方薬は6剤で、ポリファーマシーと言えばポリファーマシーではありますが、個々の薬剤を見ても、それほど不適切な印象はないかもしれません。寝たきりなので転倒・骨折リスクも少なそうです。ある日、薬剤師が在宅訪問した際、主に介護している井崎さんの長女から、次のような相談がありました。

どうも最近、脚のむくみがひどくて……。マッサージなどしているのですが、あまり良くないですね。本人も少しつらいようです。どうにかならないものですかね。

 下肢の浮腫は以前からありましたが、最近はさらに悪化している様子です。先日病院でもらった血液検査の結果をご家族に見せてもらったところ、血清カリウムが3.3mEq/Lとやや低めでした。また脈拍は90回/分と年齢の割には高いように思われました。薬剤師は次のように返答しました。

井崎さんのむくみは、やはり心臓の機能が低下していることが原因だと思います。体の水分を出す利尿薬という薬は出ているのですが、あまり効果がないのかもしれません。先生に相談してみますね。

 では、今回のケースにおいて気になるポイントを整理してみましょう。

薬物治療、ここが気になる!
・心不全によるものと考えられる浮腫や心拍数の増加が見られる。
・体液貯留のためか血清カリウム値がやや低い。
・β遮断薬の使用は考慮できないか。
・スピロノラクトン(商品名アルダクトンA他)もしくはエプレレノン(セララ)の使用は考慮できないか。

 慢性心不全では、心拍出量低下の代償として、交感神経系の活性化と、それに伴いレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が活性化され、アルドステロン分泌が促される傾向にあります。従って、体液貯留や心筋の線維化や心筋肥大、いわゆる心筋リモデリングが起こりやすい状態と言えます。このため理論上は、β遮断薬や、ACE阻害薬・ARBなどのレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬、アルドステロン拮抗薬(スピロノラクトンやエプレレノン)が生命予後向上に寄与すると考えられます。

 本来投与を考慮すべき薬剤が投与されていない状態は、「Underprescribing」とか、「Prescribing omissions」「Undertreatment」「Underuse」などと呼ばれます。STARTクライテリアや、日本老年医学会の『安全な薬物療法ガイドライン2015』における「開始を考慮すべき薬剤リスト」などに該当している薬剤と考えてよいでしょう。ただ、現時点では英語表記もバラバラで、明確な定義やうまい訳語が見当たりません。本稿では、「アンダーユーズ」と呼ぶことにします。

 ポリファーマシーと言うと多くの場合、いわゆる潜在的な不適切処方、つまりPIMs(関連記事:ポリファーマシー解消のカギ、PIMsって何?)が注目されます。薬剤数が増えれば、不適切な仕方で用いられている薬剤も増えるというのは、経験的にも分かりやすいと思います。ところが、ポリファーマシー状態はアンダーユーズと相関するという、一見すると奇妙な現象が見られます(図1)。

著者プロフィール

青島周一(病院勤務薬剤師、「薬剤師のジャーナルクラブ」共同主宰)
あおしま しゅういち氏 2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て、12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBMスタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録をブログ「地域医療の見え方」などに書き留めている。

連載の紹介

青島周一の「これで解決!ポリファーマシー」
近年、医療現場では多剤併用(ポリファーマシー)が問題となっています。本連載ではポリファーマシーの具体的な症例を提示しながら、薬学的・医学的な問題点を整理するプロセスや、医療従事者と患者が抱いている薬物療法へのイメージのギャップをどう埋めるかについて考えていきます。論文の読み方は、「症例から学ぶ薬剤師のためのEBM」を参照してください。

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